投資で成長を実現したシンガポールの戦略

政府系ファンドができる国とできない国があるのではないかと思う方もいるかもしれません。資源がある、フリーゾーンがある、そうした理由がないとできないのでは? と思うかもしれないですが、やろうと思えば日本だって可能なんです。現に、シンガポールは政府系ファンドを生かして、巧みに成長した国でした。

シンガポールの場合は、シンガポールの基幹産業と言われているシンガポールテレコム、STエンジニアリング、シンガポール航空、DBS銀行、キャピタランドといった国を代表するような企業の株を、テマセク・ホールディングスという政府系ファンドが保有しています。

興味深いのは、これらは国営企業ではなく、あくまで民間企業ということです。

上場企業であり、外国人や外国人経営者もたくさんいるのですが、その株を大量に保有しているのは政府。国が保有し、経営はできる人に任せるという、とても理に適った運営をしているんです。

そうした状況をつくり出したうえで、世界に対して投資も行います。保有している株の割合は、31%がシンガポール企業、69%が海外投資と言われています。テマセク・ホールディングスは、積極的に海外に投資をすることで、お金をどんどん増やし、国民に還元するスタイルによって、現在の成長を実現させたわけです。

「政府系ファンドの構想」は松下幸之助が説いていた

シンガポール建国の父であるリー・クアンユー元首相は、「一生のうちに年金だけで2回家を建てられる国にする」という言葉を掲げ、資源のない小国にすぎなかったシンガポールをアジア屈指の金融国家へと成長させました。こんなリーダーがいたら、一生ついていきたいと思いますよね。

かつて日本にも、こうした構想を真剣に考えるべきだと唱えた人物がいました。

「経営の神様」と呼ばれた、パナソニック(旧・松下電器産業)グループ創業者・松下幸之助です。

写真=共同通信社
パナソニック(旧・松下電器産業)グループ創業者・松下幸之助=1978年12月5日

松下幸之助は、「国徳国家」を説いています。

要約すると、仮に1兆円を国民が食べて寝て、そして1割剰余が出た場合。その1割のうち8割を国が使い、余った2割を外国に寄付しようという考え方です。ここで言う寄付を投資に変えたのが、政府系ファンドに当たります。

日本の予算制度というのは、年次単位で決まっています。

たとえば、「2024年度の予算は100万円です」と決められたら、役所は100万円を使い切るようにします。なぜなら、もしも50万円で十分まかなえたら、来年度以降は減らされる可能性があるからです。そのため、無駄でもなんでもいいから、とにかく100万円を使い切ってしまうんですね。