時代を100年先行したとも評されるアドラーの思想

しかし、アドラーの考えは違う。彼が引きこもりを脱せないのは「引きこもりを脱したくない」と決心しているからだ。不安だから外に出られないのではない。外に出たくないからこそ、不安という感情をつくり出している。「外に出ない」という行為は、過去のトラウマという「原因」の結果ではなく、現在と未来に向けた「目的」を果たそうとした結果だ。私たちは、「変わりたくても変われない」のではなく、「変わりたくないから変わらない」のだ。

人間は「過去に規定される」という「原因論」を受け入れてしまえば、私たちは現在と未来に対して無力であることになる。アドラーはそんなニヒリズムを徹底的に退け、人間は「目的」に向かって行動するという「目的論」を唱える。あくまでも可能性に目を向け、「人は変われる」ことを前提に考える――これがすべての出発点にならなければいけない。

しかし、なぜ私たちは、「変わりたい」という思いがありながら、「変わらない」と決心をするのだろうか。それは、現状に不満はあったとしても、「このままの私」でいることのほうが、楽であり、安心だからだ。自分の性格や行動を変えれば、未知の状況に対処するという面倒が生まれるし、未来が予測できなくなり、常に不安が伴う。今より悪い状況に陥る可能性だってある。そんな困難に立ち向かうためには、大きな「勇気」が必要なのだ。

他者から嫌われることで、あなたは「幸せ」になれる

あなたが不幸なのは、過去のせいでも、環境のせいでも、能力が足りないからでもない。ただ、勇気が足りない、言うなれば「幸せになる勇気」がないだけだ。アドラー心理学は、勇気の心理学なのである。

よって、やるべきことはシンプルだ。まず、「変わること」を決心しよう。アドラーのメッセージはこうだ。「これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない。自分の人生を決めるのは、『いま、ここ』に生きるあなたなのだ」。