日本の一番の弱点とは

ただこれは論理としてはなかなか難しくて、日本が攻撃される前に、先に第一目標の国がやられ、次は日本が標的になるという場合に、第一目標の段階で攻撃を止めなければならない。日本への波及を止める必要があるということで、これを「存立危機事態」とし武力行使を容認することとしました。

しかし実際にはこういう理屈で現実に対処できるのかという問題は残っています。専門的には「接着事態」というのですが、個別的自衛権行使の事例と、非常に密着しているけれど個別とはいいがたい、というギリギリのところを「存立危機事態」として武力行使ができるようにしたもので、本来の集団的自衛権そのものに触れたかと言えば、そうは言いづらい面があります。

――集団的自衛権ひとつとっても、まだまだ決めなければならないことはたくさんある。日本の一番の弱点はどのあたりにあるのでしょうか。

率直に言って、実のところ一番心配なのは「いざというときに迅速に政治決断を下せるのか」という点です。

尖閣を例に考えてみると、今は中国海警の船などに海上保安庁が対応していますが、その能力を上回るような行動をとってきた時に、対処する主体を海保から海上自衛隊に切り替える、その判断・決断ができるのか。

次の自民党総裁が担う重責

仮に、尖閣に海上民兵や海警局の人間が上陸してきた場合、現状では海上保安庁が警察権で対処することになります。不法入国として、入国管理法に基づく法執行活動として逮捕する。法的にもそういう整理ができます。

しかし、「我が国の領域に、他国の官憲が明らかに領有権を主張する目的で侵入してきた」となった場合、これを単なる不法入国としての位置付けで対処していいのかどうか。

本来なら国防の問題として対処しなければならないことを、世論その他を懸念して国防としてとらえたくない、自衛隊を出したくないというような判断で、海保に託し続けることになったら、それは健全なのかどうか。

映画『シン・ゴジラ』で描かれたように自衛隊はやれと言われればやります。ですが、やれと言われなければ一切動けません。為政者が国家として決断を下せるのか、が問われる局面になります。

――まもなく総裁選が行われますが、「その時」に誰がトップにいるかが大きく左右しそうです。

リーダーの下した決断が、向こう100年の国の安全を守ることになるかもしれないし、逆に安全を脅かすことになるかもしれない。しかしそれをすべて背負って「決める」ことができるのかどうか。世論はどちらへ動くのか。この点について非常に強い懸念を抱いています。

安全保障の問題は政治家の問題だけではなく、政治家を選ぶ国民の問題でもあるのです。

(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
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