「俺のラーメンを最高の状態で食え」だけではない

●マナー

そして近年、特によく槍玉に挙げられるのが「食事中のスマホ使用禁止」ルールだ。今回話題になった「イヤホン禁止」も類似事案だろう。マナーに近い決め事のため、「きちんと注文をしているなら、どう過ごすかは客の自由だ」という反発を招きやすい。

店側がこうしたルールを定める背景には、「最高の状態で食べてほしい」「状態が悪くなったもので評価されたくない」「自分は真剣につくっているのだから、客にも真摯に向き合ってもらいたい」といった職人気質の一面はもちろんある。

だが同時に、経営的な理由も大きい。“ながら食べ”をすると食事時間が長くなり、回転率が落ちるのだ。特にラーメン店のような業態は客単価が安いので、回転数が命。1日10回転もするような店では、行列を少しでも早くさばくことが重要となる。

食べることに専念していれば、男性なら10分もあればラーメンを完食できるが、ほかのことをしながらだと倍くらいの時間を要するだろう。食べ終えてからもダラダラとスマホを見て座っていれば、滞在時間はさらに長くなる。“ながら食べ”は基本的に、飲食店にとってデメリットこそあれどメリットがない食事方法だ。

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10店に3店が3年で廃業する苛烈な外食産業

食べログによると、飲食店は全国に86万店以上、東京だけでも13万店以上ある。東京は世界で最も多くミシュランガイドの星を獲得している美食都市であり、外食産業の競争は苛烈だ。開業から1年で10%、3年で30%が廃業し、5年で20%、10年で5%しか存続していないともいわれている。

飲食店の経営においては、こだわりや矜持、大志を抱いていなければ精神的に辛い。他店と差別化して際立つ個性を表さなければ、選ばれる店として存在しないも同然だ。そのため大将やシェフには、ある種の突出したカリスマ性や伝説的な逸話、目を引く出自や誰もが認める華麗なキャリアパスが求められる。つまりキャラクターが立っていなければならない。

そして飲食店には個人事業主が多く、法人であったとしても中小企業がほとんどなので、店主は一国一城の主といっていい。瞬間的に閃いただけの事柄でも、誰にも検閲されることなく運用できてしまう。

これらの条件が合わさった結果、飲食店の独自ルールが暴走しやすい傾向にあるのはたしかだ。