経済力が左右する五輪メダル数

上で人口あたりのメダル数が先進国で多く、途上国で少ない傾向があると述べた。これは、考えてみれば当然である。

栄養状態、身体の健康度、政情の安定度、スポーツする生活の余裕、また競技施設の充実度など、先進国の方が途上国よりスポーツする環境はずっと整っている。経済発展度を示す人口1人当りのGDPは、人口規模と同じぐらい五輪のメダル獲得数に影響を与えているという米国の学者の研究結果もあるぐらいなのである。

人口規模と人口1人当りのGDPを掛け合わせるとGDP規模そのものとなる。従って、GDP規模(すなわち経済力)とメダル数とが比例するということになるのは当然である。

経済力とメダル数の関係をグラフで理解するため、図表4には、X軸にGDP、Y軸に五輪のメダル数を取った相関図を示した。単年次であると年毎の特殊事情が影響するので、パリ大会までの7大会の結果を掲げた。GDPの値は、こういう場合の通例として、為替レート換算でなく、通貨の強弱に左右されない購買力平価(PPP)換算の値を使っている(IMFによる2024年見込み値による)。

主要国については、7大会の結果をそれぞれ線でつなげて表示したので、毎回のメダル数の起伏も理解できる図となっている。

結論的には基本的には経済規模に比例してメダル数が増える関係にあることが理解できるであろう。

図中には回帰傾向線(対数回帰)を示したが、この線より上の国は経済規模以上にメダル数が多い国、下の国は経済規模に比してメダル数が少ない国と評価できよう。

回帰傾向線より上の場合は、経済以上にスポーツを重視するスポーツ大国、あるいはスポーツによる国威発揚型の国と言えるであろう。米国、中国、英国、フランスなどはこうしたパターンの国である。日本はどちらかというと国威発揚からは遠い国であり、ドイツも日本のパターンに近づいている。

2024年パリ大会で米国は中国とメダルランキングのトップを争ってデッドヒートを繰り広げたが、図表3で見たようにメダル総数では中国を圧倒的に引き離しており、経済規模との関係では、他国と比較してひときわ多くのメダルを獲得しており、その状況がますます強まっている点で目立っている。国際政治上でやや失われてきている威信をスポーツで取り戻そうとしているようにも見える。

他方、相対的なメダルの少なさが目立っているのはインドである。人口では中国を追い抜いたインドであるがパリオリンピックのメダル数では6個(金メダル0個)と中国の91個(金メダル40個)とまるで比較にならない。なお同じ南インドの人口大国パキスタンはメダル数1個、バングラデシュは0個である。頭脳や事業経営では優秀であるインド人がなぜスポーツには力が入らないのかは大いなる謎である。

オリンピック大会の自国開催がメダル数を増やす効果がある点はよく知られている。図中に自国開催の場合にはマルに黄色の印を付けておいた。図を見れば、2000年のシドニー大会がオーストラリアの、2008年の北京大会が中国の、2012年ロンドン大会が英国の、2021年東京大会が日本の、そして2024年パリ大会がフランスのメダル数の増加に大きく寄与したことは明らかである。

そして自国開催から1~2回後の大会でもその余波でメダル数が高止まりする傾向も見て取れる。ただし、日本の場合、2021年の東京大会で急増したメダル数は次のパリ大会では急減し、自国開催の余波は少なくともメダル総数については見られない(金メダル数は明らかに余波が認められるのであるが)。

金メダル数が世界3位だったことに浮かれず、世界のメダル総数との対比(図表2)やメダル数についての経済規模との相関(図表4)で冷静に判断すれば、パリ大会での日本のメダル獲得数の評価は、多くも少なくもないまあまあの水準だったと認められよう。

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