「浜から35メートル」という距離

男性は、泳いで子どもたちのそばまで近づいたと思われます。浜からの距離は35メートルほど。その海面で男性は子どもたちと浮いていたとのことです。

35メートルというと、小学校のプールのコースの長さが25メートルですから、それより少し距離がある程度です。岸からしばらくは足が海底に届いたことでしょうから、泳いだ距離は実質25メートルくらいだったかもしれません。

25メートル、これはプールの縦の長さくらいです。特に海では25メートルというとすぐ先の景色なので、どうしても近くに見えて、つい泳いで行こうとしてしまいます。

25メートルくらいなら、筆者も普通にきっと泳いでいきます。救命胴衣も何もつけませんし、浮き具も持ちません。人を救助して、陸に戻る時に邪魔だからです。ただ、それは筆者が、赤十字水上安全法指導員の資格を持ち、入水救助の方法を教えたりする立場にあるからこそです。こうした知識やスキルがない場合は、絶対にやめた方がいい。

25メートルに潜む「魔物」

「25メートル前後」といえば、水難事故調査を続けていると、海岸での事故でよく聞くことのある距離です。

波の戻りで海に身体が引っぱられると、砕波さいはという、波が白く崩れる部分に巻き込まれます。それを過ぎると、そのすぐ沖にある砕波帯のさらに沖で、流された人が浮いていることが多いのです。

写真提供=斎藤秀俊さん
白い波が砕波、沖の次の波までの間が砕波帯。写真左側に立っている男性を見ると、深さが成人の肩ぐらいということがわかる。水難学会指導員養成講習会で、5分間の背浮き実技訓練中。2012年9月、愛知県田原市

画像1では、白い波が砕波、そのすぐ沖で背浮きをしている人たちがいるのが砕波帯、さらにその沖で浮いている人たちがいるのが砕波帯の沖です。そのあたりが距離にして砂浜の汀線(波打ち際)から20メートルから30メートルくらい先です。

その距離、つまり砕波帯の少し沖くらいなら、陸から見て「助けにいけそう」と判断されがちです。でも、この砕波帯の沖というのが魔物で、そこはちょうど海が深くなっているところでもあります。

画像1では砕波帯に立っている人がいますが、水面は肩ぐらいであることがわかるかと思います。

砕波帯の沖というのはさらに厄介で、浮き輪や救命胴衣を身に着けたまま流されてしまうと、たかが30メートルくらい先でも岸に戻れなくなってしまいます。その先に「離岸流」が発生していれば、どんどん沖に流されていきます。