【養老】ところで、名越君は、自分なりの震災対策って、しているんですか。

【名越】実は僕、巨大地震などに備えて、いざというときに住まわせてもらえる「疎開地」を、いくつか見つけたいと思っているんです。もちろん初めから功利的にそう考えたわけではなくて、10年くらい前からその地域の自然や人の気性に触れてしょっちゅう通うようになったということなんですけれど。

例えば、日本海側にも、定宿や行きつけの店があるんですよ。もし南海トラフ地震が起こったら、いくらか土地勘のあるそこに避難させてもらおうかとも思っています。地方に旅行に行ったら、観光地を巡るのもいいんですが、市場や商店街も覗いて、その土地の生活に触れてみるのが楽しいのではないでしょうか。

子どもがいたら、セミナーとか、キャンプとかに行って、地域の人たちと交流する。田舎がない人も、「マイ田舎」を、ぜひ自分でつくるべきというのが、僕の持論です。

単に疎開先を確保するのではなく、それ自体が楽しくて、豊かなことなんですよ。いざというとき、僕たちを救ってくれるのは、田舎しかないと信じています。

【養老】「田舎に疎開」っていうと、僕は、第二次大戦を思い出すけど、震災に備えた疎開地なんだね。

【名越】マイ田舎って、遠くだけにつくらなくてもいいんですよ。自分が住んでいる街を愛して、地元で馴染みの店や友人知人ができるのも、大切なことでしょうね。

例えば、僕の場合、東京だったら、自宅から徒歩30分の所に、3〜4年通い続けている小料理屋があるんです。女将はたぶんいろいろな経験もあって、日頃から災害の備えもしているらしく、「東京で震災に遭ったら、ここに逃げておいで。ご飯だったらあるから」と僕に真顔で言ってくださるんです。もし日本が壊滅したら、助けてくれるのは、半径1キロの人間関係だけだと考えています。

【養老】遠くや近くに、自分の田舎を持つのは、とてもいいことだと思うよ。

でも、どうせ田舎に行くなら、地理的な田舎ではなく、「精神的な田舎」がいい。実は最近、地方の子どものほうが、都会の子どもよりも肥満傾向という文部科学省の統計結果があるんです。

地方の子どもの「脳が都会化」して、周りの自然に親しまないで、コンビニばかり行って偏食しているのが要因の一つかもしれません。地方の人がよく、「こんな田舎で、何もなくてすみません」って言うのも、脳が都会化している証拠。田舎の価値を、住んでいる人たちがわかっていない。