第2回から続く)

楽しく疎開できる「マイ田舎」をつくろう

【名越】養老先生のおっしゃるとおり、日本がいま物質的に豊かだというのは、史上初めてのことかもしれませんね。

お話をうかがっていると、僕らの生活が、いかに「温室状態」なのかに気付かされる。例えば、「南海トラフ地震」のような巨大地震がもし起きたら、2日もすれば、米粒一つない危機的状態が訪れるでしょう。根底的に覆る未来が待っているということですよね。

それにどう対処するかということであれば、世界の見え方を正すというほうが本質的だし、かつ早いのかもしれないと思うんです。

先日、ウイルス学者の宮沢孝幸先生に聞いたんですが、人間も地球という全体性からすれば、ウイルスみたいなもの。つまりウイルスは生体内部でしか増殖しない、生きていけないというけれど、地球の側から見ると人間だって地球の大気圏内でしか生きてゆけないのだから、ウイルスと何ら変わりはないと。

環境が少しでも変わったら、すぐに死んでしまうのですから。そんな脆い恒常性の上で、いがみ合っているのはおかしいんです。

【養老】南海トラフ地震が2038年に起こるという説があるけど、そのときに僕は101歳。危機をどう乗り越えるのかを見届けたい。

関東大震災の後の第二次世界大戦みたいに、日本では大きな天災の後に戦争が起こるんだよ。人が死ぬことに、抵抗がなくなるからじゃないかな。巨大地震の後に、間違った方向に行かないようにしないと。

日本の食料自給率って、約4割じゃないですか。そうすると、皆さんの体の6割は「外国製」ってこと。食料は、もっと自給できるのではないかと。

それに、日本の1年間の植物生産量って、日本人の消費エネルギーの4%にしかならないそうです。ということは、江戸時代のようにバイオマスだけではエネルギーの維持はできない。

【名越】そんなこと、日本人って、意識していませんものね。

【養老】いざというとき、電力はどうするのか、復旧の要員はいるのか、そうした要員の教育はできているのかといったことを、震災に向けてもっと、みんなで真剣に考えてほしい。巨大地震が起こっても、日々の暮らしを維持しなければならないんだから。

実は、日本でもエネルギー危機に備えて、電力を自給自足していこうと、島根県・津和野のように、木材など生物由来の再生可能エネルギーを使った「バイオマス発電」に取り組んでいる地域もあるんですね。

ところが、日本の小規模なバイオマス発電所の発電機は、すべてフィンランド製。日本の電機メーカーは、「儲からない」と言って、バイオマス向け発電機をつくらないそうです。

【名越】世界のリーダーたちは気の毒そうな顔をしながら、日本を見捨てますよ。いまだに消費社会の拝金システムに、怠惰ですがりついているのは日本だけ。

経済の尺度でしか、物事を考えない。だから、マスメディアの報道も偏り、震災について本気で考える重要性が広まらない。でも、最近ではいい震災の解説書が出つつあるし、若い人たちの意識が先に変わってきているから、5年もたてば、震災対策が大きく進んでいる可能性は残っています。