20代のうちに山で修行したかった

【名越】養老先生は、今年で87歳になられますが、いつも矍鑠かくしゃくとされて、お元気ですよね。僕は今年64歳になるんですが、還暦を過ぎて70代に近づくと、やはり体が弱ってきて、いろいろキツいことが増えます。

人生の先輩として、「若いうちにこれをやっておいたほうがいい」とか、「老後をこうやって迎えたほうがいい」とか、アドバイスをいただけるとありがたいです。

【養老】悪いけど、特にないね。人間、年を取ったら、いろいろ衰えてくるのは当たり前。ジタバタしないで諦める、受け入れたほうがいい。素直になって、若い人たちに頼ればいいんですよ。

老人ホームで高齢者の手を握っている看護師の手
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見方を変えれば、老人は得なんです。みんなに助けてもらえるから。僕だって、いまはもう体がめっきり弱ってしまったけれど、周りの人がいろいろ世話してくれるから、特に困っていることはない。

ライフスタイルも、「自分でできる範囲のことはやって、できないことはしない」と割り切っているから、何も苦しいことはないしね。名越君は、若いときに「これをやっておけばよかった」ということはあるんですか。

【名越】強いて言えば、20代のうちに、「山ごもりの修行をしたかった」ということですかね。自然と一体となった生活をしていると、動物と同じように感覚が研ぎ澄まされ、自分を守るためのアンテナが立ってくると思うんです。生物本来のサバイバル能力が蘇るというわけですね。

ただし、そうした感覚が身につくには2〜3週間かかるそうです。

この年で山に入ると、免疫も弱っているし、きっと修行を長期間続けるのは難しい。志のある方には「経験できるのはいまのうちだよ」と言いたくなりますね。

山の中で、野生動物とは言わないまでも、せめて飼い犬、飼い猫レベルで方向感覚を取り戻したり、周りにいる動植物の位置を把握できたりする能力を身につけてみたかったんです。

実は、それは養老先生の影響なんですよ。養老先生と一緒に山の中を散歩していたとき、先生が虫をすぐに見つけるので、驚いて。

【養老】名越君は、探すのが下手だった。

【名越】僕があちこち探しても、虫が見つからないので困っていると、先生がヒョイっと見つけて、「ここにいるのに、なんでわからねえんだ」と。

【養老】年季が違いますからね。僕のほうは、小さい頃から、自然の中で虫捕りをしてきましたから。体の中に培われた感覚なんだろう。