「お子持ち様」というネットスラングの背景

家庭だけが子育てをするのではなく、社会全体が子育てをする社会・時代になることが理想です。

そのためにはどうすればいいか。できるだけ子育てをしているほかの人たちと交流することが重要でしょう。

ただし、現代は親同士のネットワークを構築することがなかなか難しくなっています。全国的にPTAの活動が縮小傾向にありますから、いわゆるママ友、パパ友はつくりにくくなってきています。ですので、子どもには自宅に友達を呼んでもらうようにすると、親同士のネットワークができてきますので、子どもに「友達はどんどん連れてきて大丈夫だからね」と伝えるのは有効です。

ほかの場所で交流を持つ場合、例えばお稽古ごとは価値観が近い親御さんが集まるのでネットワークはつくりやすいです。あとはSNS。インターネット上には子育てネットワークがたくさんあるので、周りに仲間がいなくて孤立しているなら、自分の価値観が合いそうなネットワークに入っていくのも一つだと思います。

現在の日本が子育てをしやすい社会なのかというと、あまり適していない状況だと思います。制度は少しずつ拡充してきたとはいえ、現場レベルで見ると育休や産休は取りにくく、産休を取る人が後ろめたく感じたり、理解の得られない同僚からは悪者扱いされる風潮があることもしばしばです。制度で優遇される子育て社員を揶揄するネットスラングで「お子持ち様」という言葉をSNS上で見て「ひどい言葉だな」と感じるのですが、そうしたスラングが生まれること自体が、日本社会は子育てに寛容ではなくなっている証拠なのかもしれません。子どもはこれからの時代を支える存在です。日本を支えていくという使命を個人が持つことが求められますが、社会全体がもっと変わっていくことも望まれます。

子どもが生きていく社会において、さまざまな人たちが存在していることも大きな学びになります。そう考えると、一番近くにいる両親が価値観や情報を常にアップデートすることも社会性の教育に効果的です。自分の興味・関心や価値観だけで情報やニュースを選ぶのではなく、自分には関係なさそうでも、社会や今後にとって重要なキーワードにも積極的に触れていくといいでしょう。親自身が社会や世界に興味関心を広げていくことが重要です。

自分の学歴がよくなかったせいで苦労したから、子どもはいい大学に行けるように厳しく教育しているという親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、これも古い価値観だといえます。そもそも、いい大学を出ても大企業に就職できるとは限りません。もちろん、学歴がよければ職業選択などの幅は広がりますが、現在は以前ほど偏差値至上主義ではなくなっているので、子どもが窮屈に感じるほどプレッシャーをかけ続けるのはいかがなものかと思います。

学歴以外にも、人はさまざまなコンプレックスと一生戦い続けることを考えると、他人との競争で優劣がつくことだけに価値を見出すよりも、本人が好きなことや興味・関心を貫く人生を送るために導いてあげるほうが、将来的に子ども自身の金銭面だけではない豊かさや、生きがいを自分自身で見つけることに繋がるのではないでしょうか。

大人になったのに実家暮らしの子どもが多いことも、子育てが続いて悩みが増える理由かもしれません。WorldValues Survey (世界価値観調査)の調査では日本の29歳以下の親子同居率は約66%。29歳にもなると、すでに手はかからなくなってはいますが、同居していれば何かしらの関わりは発生するでしょうし、子育てとまではいかないものの、子どもの世話が継続しているのと同じような状態です。いつまでも面倒を見るのではなく、意識的に子育てを終わらせること、またそうすることを伝えて本人に自立を意識させることも親の務めではないでしょうか。同居している子どもがすでに成人している場合も、なるべく早く別居をするほうが本人のためになると思います。