価格の高いプラセボ薬ほど効果が高い

こうしたプラセボ効果の存在は古くから知られていて、なんと18世紀の文献にすでに登場しているほど。その後もさまざまな研究が行われ、興味深い結果が出ていますから、ここで一部を紹介しましょう。

プラセボ効果は薬の値段に影響され、高価なプラセボのほうが安価なプラセボより効果的だとする研究があります(※1)。高い薬のほうが効きそうな気がするという心理的な期待が関係しているのでしょう。根拠はないのにやたらと高価な健康食品やサプリメントは、プラセボ効果を狙ってのことかもしれません。他にも、錠剤よりも注射のほうがプラセボ効果が大きくなることを示す研究、錠数が多いほどプラセボ効果が強くなることを示す研究、ブランドラベルがついているほうがプラセボ効果が高まることを示す研究があります。

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さらに興味深いことに、薬の色がプラセボ効果に影響を与えるという研究もあります。青いカプセルは、赤いカプセルと比べ、より精神を落ち着かせる効果があるそうです(※2)。「ただし、イタリア人男性は例外で、青い薬は刺激作用が起こりやすい。これはイタリアのサッカー代表チームのユニホームの色が青であることに関連している」という話まであります。医学論文の裏付けを見つけることはできませんでしたが、プラセボ効果が文化の違いに左右されることはありそうなことだとは思います。

※1 Placebo effect of medication cost in Parkinson disease: a randomized double-blind study
※2 Placebos Are Getting More Effective. Drugmakers Are Desperate to Know Why. | WIRED

痛みや不安などの自覚症状によく効く

ただ、どのような病気にもプラセボ効果が発揮されるわけではありません。痛みや不安、不眠、うつ状態、吐き気といった自覚症状にはよく効きます。でも、がんや感染症などの病気そのものを治すことは難しいでしょう。気管支喘息において、プラセボが客観的所見を改善させない一方、主観的症状を改善させることを示した研究があります(※3)

気管支喘息は、気道が狭くなり、ゼイゼイと音が鳴る喘鳴や呼吸苦を起こす病気です。気道の狭さは、1秒間に吐き出す空気の量「1秒量」で客観的に測定できます。この研究で、気管支喘息の患者さんは「気管支拡張薬の吸入」「プラセボの吸入」「プラセボ鍼」「無治療」の4種類のいずれかをランダムに受けました。結果、気管支拡張薬の吸入は1秒量を改善させ、プラセボ吸入とプラセボ鍼と無治療は改善させませんでした。でも患者さんの主観的症状は、いずれも改善したのです。

こうしてプラセボ効果が心理的な影響を受けることはわかっていますが、かといって心だけの問題とはいえず、生理学的メカニズムも関係しています。たとえば、痛みを軽減するプラセボ効果は動物にも見られ、動物実験を通じて存在が確認されています。これらの実験では、プラセボ効果はモルヒネの作用を阻害する物質によって消失します(※4)。このことから体内でモルヒネに似た物質が生成され、プラセボ効果に関与していると解釈されています。プラセボ効果のメカニズムは複雑です。

※3 Active albuterol or placebo, sham acupuncture, or no intervention in asthma
※4 Placebo-induced analgesia in an operant pain model in rats