企業は「バブル景気の再来」を望んでいるわけではない

今年2月に日経平均はバブル期の最高値(1989年の大納会)を更新した。大手企業の2024年夏のボーナス妥結状況は98万3112円と、比較可能な1981年以降で最高額となっている。

一見すると、バブル復活の期待感から、バブル前後のトレンドが復活しているようにも見える。ただ、現在の日本経済はバブル期とは大きく異なっているのもまた事実だ。

日本はもはや世界をリードする超大国とは言えなくなっているし、高齢化が進み、所得格差も拡大している。日本全体が熱狂していたバブル期とは様相はだいぶ異なっている。

企業もそのことは重々承知しており、「バブル景気の再来」を待ち望んでいるわけではない。

それでもなお「バブル期のトレンド」を想起させるCMを今になって作るのはなぜか。

平成バブル時代と現在との世相の共通点と違いを読み解けば、現在のトレンドの背景にあるものが浮かび上がってくる。

ビッグマック「あしたも、笑おう。」篇(105秒)より
ビッグマック「あしたも、笑おう。」篇(105秒)より

「I feel Coke」で描かれた高揚した大人の世界

バブル絶頂期には、筆者は田舎の公立高校の学生だったため、バブルの熱狂も恩恵も味わう機会はほとんどなかった。バブル期に東京都心の私立大学に通っていた知人(男性)はこのようなことを言っていた。

「あの時期の女子大生は社会人と付き合っていて、僕たち男子学生は相手にされなかった。だから、バックパック旅行をして、物価の安い東南アジアで遊んでいた」

これはひとつのケースに過ぎないが、バブル期の消費の主体は社会人(あるいはそのおこぼれにあずかっている学生)だったと言えるだろう。

実際、当時のコカ・コーラの「I feel Coke」のCMは若者というよりはある程度成熟した大人が中心で、描かれているのも大人の高揚した世界だ。

バブル崩壊は1991年とされているが、世相の変化は1995年あたりが分水嶺となっている。

1995年は、阪神大震災、オウム真理教の地下鉄サリン事件という、日本を震撼させた大事件が起きている。また、コスモ、木津、住専などの金融機関の破綻、大和銀行の巨額損失の発覚という、のちの金融機関の再編へとつながる出来事が起こっている。

1995年以降、若者、特に未成年を中心とするカルチャーが活発化している。アムラーの出現も1995年であるし、コギャルやルーズソックスのブームも、1995年以降がピークとなっている。

なお、最近若者の間でリバイバイルしているのも、1995年以降のトレンドがメインである。2022年頃から若者の間ではやりはじめた「Y2Kファッション」は現在でも継続しており、こちらも2000年代前後のトレンドだ。

つまり、最近の「レトロCM」を紐解けば、企業広告のターゲット層が1995年以降の「若者文化」に親しみを持つ現代の若者世代から、1995年以前の「大人文化」に懐かしさを覚える40代以上の中高年世代へとシフトしていることが読み取れるのだ。