では、右脳/左脳とそれぞれの脳番地が、どのように連携してひとり言が生まれているのでしょうか。

ひとり言には声に出して口から発せられる「外言語のひとり言」と、声にはならないけれど頭の中で巡る「内言語のひとり言」があります。後者は一般には「ひとり言」と認識されることが少ないのですが、頭の中で考えを巡らせたり自問自答しているときには、脳内言語のひとり言が生まれています。

美しい景色を見て「きれいだ」と感嘆したり、好きな音楽を聴いて「いいねぇ」と唸ったり、不快な思いに「ああ嫌だ」と吐き出すようなひとり言は、右脳の「視覚系」「聴覚系」「感情系」などの脳番地から発せられています。ただ、それは感情が感情のまま漏れ出たように整合性がなかったり、言葉として意味を成していないかもしれません。

急に仕事のアイデアを思い付いたり企画のイメージが浮かぶときは、目に見えた映像や耳から聞こえてきた音声、過去に蓄積された記憶のイメージが結びついて、モワモワと浮かび上がってきます。それがおぼろげな言葉となって漏れ出てくるのが右脳から出るひとり言です。

これらは意識していなければ、そのまま消えていってしまいます。周囲も「何やら意味のわからないことをつぶやいている」程度にしか認識できないと思います。

ところが、その瞬間を捉えて「ん? いま頭に浮かんだのは何だ⁉」と拾い上げることができると、情報は「伝達系」脳番地を介して左脳に送られます。左脳はモワッとしたイメージを「理解系」脳番地で解析し、余分な部分を削ぎ落としたり足りない部分を記憶や推測で補って、意味の通った文章にするのです。

この構成作業は内言語として処理できる場合もありますが、情報が多岐であったり複雑に入り組んでいる場合には、いったん外言語としてアウトプットし「聴覚系」脳番地を介してインプットし直すと格段に整理しやすくなります。会議で皆が挙げたバラバラのアイデアをホワイトボードに書き出して、括ったり広げたりしながら結論を導き出そうとするのと同じです。

また、外言語でひとり言が発せられる際には、唇・舌・喉などの筋肉が使われ「運動系」脳番地が関与します。さらに自分のひとり言が音声として耳から聞こえることで、経験・体験として記憶に定着しやすくなるのです。

まとめると、右脳のどこかで生まれた感情が「思考系」に拾われ「伝達系」を介して左脳に送られます。

そのまま左脳の「理解系」で処理されて内言語のひとり言となるパターンもありますが、「運動系」を介して外言語のひとり言としてアウトプットされると「聴覚系」から再び「理解系」に伝達され、「記憶系」に格納されるといった流れになります。

ひとり言をつぶやくことでこれだけの脳番地が活性化して、考えが深まり展開していきます。これこそが、ひとり言の効用です。

大一番では事実に基づく論理的な言葉で脳を説得

この仕組みがわかると、意識してひとり言を発して、脳の動きをコントロールできるようになります。

私の場合は朝の散歩に出かけたときに、心掛けてひとり言を言っています。睡眠中に記憶が整理されるので、朝は脳が発想を生みやすい状況にあります。また歩いていると「運動系」脳番地が活発に働いて、他の脳番地を刺激します。視線を上げて「今日は気分がいいなあ」「おや、珍しい花が咲いている」など見えた景色をつぶやきながら「感情系」脳番地を揺すって、思わぬひとり言が出てくるのを楽しみに待ちます。

写真=iStock.com/Edwin Tan
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