なぜスマホは「親の代わり」になり得ないのか
親の育児の一部をスマホで代行することを、“スマホ育児”という。
これまで脳科学や発達心理学など多くの専門家が、スマホ育児が及ぼす弊害について警鐘を鳴らしてきた。詳しくは専門書を参照してもらいたいが、簡単に押さえておけば、スマホ育児の悪影響は「アタッチメント」の欠如という点で語られることが多い。
従来の子育ては、養育者が直に子どもと触れ合って行うものだった。子どもは体温、声、吐息など様々なものを感じ取ることによって、養育者と強い心理的な結びつきを手に入れる。これが心理学でアタッチメントと呼ばれるものだ。
子どもはアタッチメントの中で情緒力や想像力を伸ばし、そこを安全基地にして他者と触れ合ってコミュニケーション能力を高める。アタッチメントは子どもの発達の基盤とも呼ぶべきものである。
スマホ育児の欠点は、養育者とのかかわりがスマホに取って代わられることで、その基盤が弱まり、発達が妨げられることだ。これに関する研究はいくつもある。
たとえば、前出の論文には、7097人の子どもを対象にした調査で、1歳児が経験したスクリーンタイムの長さ次第で発達の遅れが現れるという研究成果が出ている。
これによれば、スクリーンタイムが4時間以上の子どもは、1時間未満の子どもと比べると、2歳児の時点でコミュニケーション領域の発達に遅れが生じる割合が4.78倍、問題解決の領域で2.67倍になるという。
本書のプロローグで、明和政子教授の「デジタルの時代に生きる子どもたちの成育環境は、ホモサピエンスのそれではなくなっています」という言葉を紹介したが、こうしたところに理由があるのだ。
周囲の「静かにさせろ」という圧力に屈してしまう
では、今の親は、スマホ育児に対してどのような認識を持っているのだろうか。園の先生方によれば、二つに分かれるそうだ。
一つが、スマホ育児の弊害を理解しながらも、つい子どもにスマホを与えてしまう親だという。周りの大人からの「静かにさせろ」という圧力に屈したり、ワンオペの忙しさに耐えられなかったりして、頭ではリスクをわかっていながら、その場を乗り切るためにスマホを与える。
このような親は、スマホを与えていることに罪悪感を抱いているため、スクリーンタイムを短くしようと努めたり、遊びや運動の時間を意図的に増やそうとしたりする傾向があるらしい。そういう意味では、スマホ育児の弊害はそこまで深刻ではないかもしれない。
これに対して二つ目が、スマホ育児を前向きに考えて積極的に行っている親だ。先生(東海、40代男性)の言葉を紹介しよう。
「スマホ育児をいいと思っている親は、年々増えているように感じます。よく耳にするようになったのが、育児にアプリを使ったほうが、自分の判断で子育てをするより安心だっていう意見。自分の音痴な子守歌を聞かせるより、アプリでプロのうたう子守歌を聞かせたほうが絶対音感がつくだろうとか、自分が遊び相手になるより、知育アプリをやらせたほうが効果的だというのです」
現在、開発されているアプリの中には、有名なプロの歌手を採用しているものや、閲覧するだけで頭が良くなることをアピールしているものがある。親は自ら手をかけて育てるより、専門家が作ったアプリを用いるほうが子どもの発育に良いと考えるようになっているのかもしれない。