「育児=子供を静かにさせること」という勘違い
園の先生方へのインタビューで興味深かったのは、子どもにスマホを長時間見せるのは、母親より父親だ、という意見が多かった点だ。
ここ10年ほどの間に、社会では男性の育児が推奨され、育児休暇を取得するハードルが大きく下がった。共働き家庭では、女性と男性が数カ月ずつ育休を取ったり、土日と平日に分けて育児を分担したりすることも増えている。
歓迎すべきことだが、なぜ母親より父親のほうが子どもにスマホを見せる時間が長くなるのだろう。先生(関東、40代男性)は言う。
「少し前に日本の中で“イクメン・ブーム”が起きて、父親がだいぶ育児に参加するようになりました。でも、全体の傾向として父親は母親に比べて、育児の仕方を知りません。ミルクの作り方だとか、オムツ交換の仕方だとかは教えてもらっていても、それ以外の時間にどう接していいかわかっていない。パパ友のネットワークも乏しい。そうなると、父親は子どもが早く泣き止むようにとか、退屈しないようにといった理由でスマホを与えっぱなしにしてしまうんです。子育てのイメージを持っていないので、とりあえず静かにさせるのが育児だと思っているのです」
子育てをした気になっている「イクメン」
メディアが、育児に積極的な父親を「イクメン」ともてはやしたのは2000年代後半以降のことだ。それに伴い、「自称イクメン」も増えたという。
この先生の園では、イクメンを自称する男性の保護者がいたそうだ。だが、先生方からすれば、その子どもは明らかに睡眠不足だったり、言葉の発達が遅れていたりと懸念すべきことが多かった。
先生は心配になって、男性に育児の仕方を聞いた。すると、男性は子どもにスマホを与える一方で、自分はSNSに子どもの写真をアップしたり、育児日記を書いたりして、周囲に育児をしていることをアピールするのに必死だったという。
「女性の場合は、『私、子どもにスマホを見せすぎちゃうんですよね』とか相談してくれることが結構あります。でも、男性の場合はそれがないし、妻のほうも夫の育児を見る機会がない。妻が夜に仕事から帰った時に、夫から『今日はおとなしかったよ』『いい子にしていたよ』と言われればそれまでです。なので、男性のほうが育児の内容が見えにくいのです」
夫婦が協力して育児をすることが当たり前になる中で、“イクメンの形骸化”と呼ぶべき現象が起きているのである。