個人の尊重には短所もある

ただ、これまで個人の尊重や強要しない社会、ストレスの少ない働き方の長所のみを述べてきましたが、現実には問題も存在しています。自由な意見交換や個人の尊重が重要視される一方で、広すぎる個人の自由から、会社組織や社会の中で統制が難しくなる場面もあるのです。

近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)

たとえば、会社では上下関係が弱いため、上司からの指示通りに仕事をしない人もでてきます。また、新しい仕事に就いたとき先輩と後輩の関係もないので、仕事をしっかりと教えてくれる人もあまりいず、業務の引き継ぎが難しいこともあります。

別の例でいえば、コロナ禍においては、国民の自主性を重んじられ、マスクの使用は推奨されず、集団感染戦略を採用した国として注目されました。しかし、その結果、高い感染率と多くの高齢者の死亡という状況が生まれました。

最終的に政府のコロナ委員会は、自主性に頼る対策の難しさを述べ、高齢者コロナ対策は失敗だったと公式に発表しました。個人を尊重し強要しない社会は、個々の自由度や幸福感を増加させる一方で、行き過ぎれば統制が難しくなるジレンマも持ち合わせています。

世界一幸せな国は自由と規制のバランスが絶妙

ですが、フリーダム・ハウスによる世界の自由度ランキングで、8年連続で1位であるフィンランドは、コロナ禍で自由を尊重しつつも、首都圏の閉鎖やマスク着用を推奨するなど、自由と規制のバランスを重視した対策をとりました。結果として、2020年のピーク時においても北欧の中で最も低い感染率であり、多くの高齢者の死亡も防げました。

知人のフィンランド人は、「個人の自由も重要だが、社会秩序を守ることも同じくらい大事です。コロナ対策で自由と規制とのバランスを両立させたマリン前政権は、国内で高く評価され信頼度も高かった」と話していました。

そうしたフィンランドはコロナ禍以降の2024年の世界幸福度レポート、また、世界の自由度でも依然として、世界の1位であり続けています。

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