サッカーにとっても野球にとっても「専スタ」ではない

しかし「行政の仕事」は「継続性」が基本だ。札幌ドーム側としては「プロ野球のビジネス環境が変わったから、契約を見直してください」と言われても、「知らんがな」という感じだった。

札幌ドームの指定管理者は、第3セクターの「株式会社札幌ドーム」だ。社長は北海道銀行などの出身だが、副社長以下幹部には札幌市役所の職員が就任している。メディアからは「天下り会社だ」との指摘もあるが、それもあって指定管理者の座を日本ハムに譲ることは、考えられない。

また札幌ドームは、Jリーグのコンサドーレ札幌も本拠地にしていた。

もともと札幌ドームはサッカーのワールドカップの会場として建設された。本来ならコンサドーレ札幌が「主たる使用者」のはずだったが、日本ハムが移転してきたために「軒を貸して母屋を取られる」ようになった。

野球とサッカーの両方の試合をするために、野球のときには、人工芝をカーペットのように敷き詰める。そしてサッカー使用時は人工芝をたたんで収納し、スタジアムの隣で養生した天然芝を「ホヴァリングシステム」で移動させて使っていた。

サッカーにとっても野球にとっても「専用スタジアム」でない分、試合環境としては厳しい。サッカーサイドにしてみれば「野球が来なければ、こんな不自由な思いはしなくて済んだのに」という意識がある。

撮影=プレジデントオンライン編集部
エスコンフィールドHOKKAIDO

「もっと早くからやればよかった」

株式会社札幌ドーム、日本ハム、コンサドーレと施設の主要3者の思惑と利害が相反するなかで、日本ハムは2016年、自前のスタジアムを北海道に建設することを決めた。

株式会社札幌ドームの年商は30億円ほどだが、その約4割を占める「最大の店子」が、出ていくことを決めたのだ。

一般企業であれば、2023年と決められた「移転」の前に、新たなビジネススキームの構築、スポンサーや支援企業の獲得に動くはずだろうが、株式会社札幌ドームは、少なくとも表面上は目立った動きはなかった。

そして2023年3月期決算では、「日本ハムが出ていった2023年は、一時的に少し(純利で2.9億円ほど)赤字になりますが、翌年以降はまた黒字になります」という極めて楽観的な見通しを発表した。

2023年3月に札幌市に隣接した北広島市にできた日本ハムの新たな本拠地、エスコンフィールドHOKKAIDOは、開場当初こそ「遠い」「アクセスが悪い」と言われたが、ペナントレースが始まると「野球観戦を核として、グルメ、ファッション、レジャーを満喫できる」本格的な「ボールパーク」としてブームを呼び、1年目から利益を出した。

運営担当者は「もっと早くからやればよかった」と言った。

撮影=プレジデントオンライン編集部
「エスコンフィールド」内には球場とは思えないほど、フードが充実している。こうした飲食収入もあり、日ハムの23年の年間売上高は、札幌ドーム時代の19年から1.6倍の251億円となった。