「売却予定がないから簿価会計でいい」の矛盾

6月18日の参議院財政金融委員会で、私の質問に植田総裁は「保有国債を今後満期前に売るつもりはないから、償却原価法で問題ない」との答弁をされたが、これは問題発言だ。

つまり、ランオフ(満期になる国債分を借り換えないで残高を落とす)しかせず、満期前に国債を売ることは無いと答弁したわけだが、これは「ばらまかれたお金を積極的に回収はしない」と宣言したに等しい。市中にばらまかれたお金を積極的に回収するには保有国債を売るしか方法がないからだ。

私が以前、参議院予算委員会で日銀に聞いたところ、今年満期を迎える日銀の保有国債は67.1兆円になる。ちなみに国債保有額は596.7兆円(2024年2月末時点)に上る。満期前に保有国債を売らないとすれば、67.1兆円しか減らさないという意味になる。インフレになっても金融政策を引き締めず、お金でジャブジャブの状態をほったらかし、日銀は指をくわえてみているだけ、と自ら宣言したようなものだ。

インフレ時に何もできない中央銀行など、もう中央銀行のていをなしていない。

仮に、インフレに立ち向かうため日銀が国債の途中売却を行えば、総裁の「売却予定がないから簿価会計でよい」との発言の前提が崩れる。売却した途端に全ての保有国債は時価会計での算出が必要になり、巨大な評価損がたちまち巨大な実現損に変わる。この時価会計は日銀が民間銀行に強要している日本の基本的会計原則でもあるのだが……。

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日銀の債務超過を甘く見てはいけない

日銀が債務超過になったら途端に米外銀が撤退するとは思わない。しかし、債務超過の解消に時間がかかる、筋道が見えない、あるいは債務超過額がどんどん大きくなると判断すれば話は別だ。一晩で撤退する。株主利益を第一に考える米銀には当たり前だ。

撤退すれば円はドルとのリンクが外れる。世界の基軸通貨・ドルとのリンクが外れたら円は暴落だ。外国産農産物や原油などは暴騰して、日本にハイパーインフレが到来する。今現在、日銀は純資産である。したがって外資の撤退を私はさほど心配していない。しかし債務超過になったら毎晩が不安になる。これは今まで述べてきたとおりである。

長期金利0.1%ごとに2.9兆円の評価損が発生

伝統的金融政策であれば、中央銀行が金利を上げても、自身には全く負荷がかからなかった。しかし、非伝統的な政策にシフトした日銀にはものすごい負荷がかかる。

中央銀行たるもの価格が大きく上下する金融商品は買ってはいけない。これが伝統的金融論(=正統的金融論)の基本のキである。債務超過になって中央銀行の信用が落ち、その発行する通貨の価値が暴落するリスクがあるからだ。さらに日銀はその大原則に反して(ETFの購入を通じて)株を買っている。それも今や日本一の大株主だ。金融政策目的で株を保管しているのはG20の中央銀行で日銀だけだ。