お母さんのマッサージ

最上沙季さん(宮古商業高2年生)。

最上沙季(もがみ・さき)さんは宮古商業高校(流通経済科)2年生。お父さんはガソリンスタンドを経営している。

「ガソリンスタンドと、あと、水道とかの仕事もやっています。震災の直後は、破裂した水道を止めて歩いたり、残っている家の水道管を直したりしたそうです。ガソリンスタンドのほうでは、自衛隊の車や緊急車両などにガソリンを詰め続けたそうです。見ていて、父の仕事が頼りにされているんだなと思いました。『忙しくて大変だ』と父は言っていて、体を壊さなければいいなと思っていました。母は、父の仕事の事務をやっています」

震災から3日後、3月14日に陸上自衛隊札幌病院の医療チームが宮古市避難所に入った。22日には宮古港に海上自衛隊の多用途支援艦「あまくさ」が救援物資を陸揚げし、陸自に引き渡す。26日には陸自の給食支援と入浴支援が開始された。宮古市内の公道上の車両(1300両)撤去が完了したのは3月23日。上下水道が100%復旧したのは4月15日。その間、いやそのあとも、最上さんのお父さんとお母さんは休みなしで働いていたのではないか。そのお母さんから言われたひとことが、最上さんが「将来やってみたいこと」のきっかけになっている。

「理学療法士をやってみたいなって思ってます。中学生くらいのとき、こういう仕事があるって知りました。体の不自由な人とかのマッサージとか、リハビリして歩けるようにお手伝いするとか、そういう仕事です。お母さんのマッサージをしているとき、『気持ちよかった』とか言われると、いいなあって思って。こういうことをお年寄りの人とかにできたら、喜んでもらえるのがいいなと思って」

理学療法士になるには、どうすればいいんですか?

「資格がいちばん大切かなとは思ってます。どういうふうに取ればいいのかは、まだよくわからないんです」

調べてみた。理学療法士は厚生労働省管轄の国家資格だ。年に一度、全国8カ所で試験が開催される。宮古からいちばん近い会場は仙台となる。文部科学大臣指定の学校か、厚労大臣指定の理学療法士養成施設で3年以上、知識と技能を修得した者に受験資格がある。《理学療法士を一言でいうならば動作の専門家です。寝返る、起き上がる、立ち上がる、歩くなどの日常生活を行う上で基本となる動作の改善を目指します》という明快な説明を記している日本理学療法士協会のウエブサイトで「理学療法士養成校一覧」を見ると、大学90校、短大5校、4年制学校(専門学校)76校の名があるが、岩手県にはひとつもない。3年制(専門学校)80校の中に、ようやく岩手の学校がひとつ現れる。

最上さんは、宮古商業高校を卒業したあと、どういう進路を考えていますか。

(明日に続く)

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