決して凶暴な人間たちではなかった

事故と隠蔽工作について知る者は、教祖と数人の幹部に留まっていた。ところが、たまたま信者が死亡した現場に居合わせた出家信者が一人いた。その人物は、教団の修行のあり方に疑問を抱くようになり、脱会を申し出てきた。

島田裕巳『日本の10大カルト』(幻冬舎新書)

麻原は幹部に指示して、翻意させようとしたが、拒まれた。そこで、秘密の漏洩を恐れて、その出家信者を殺害してしまったのだ。

殺害のやり方は、出家信者の首にロープを巻き、それを4人の幹部が2組に分かれて引っ張るというものだった。犯行にかかわったのは、早川紀代秀、新實智光、岡崎一明、村井秀夫で、いずれも事故死した在家信者の遺体遺棄に関与していた。ロープで巻かれた出家信者が抵抗したため、新實が頭と顎の部分を押さえ、首を捻じった。これで出家信者は亡くなる。教団は最初の殺人を犯したのである。

犯行に関与した幹部たちは、事故死が明るみに出ることを恐れたわけだが、彼らは、ヨーガの修行をするためにオウム真理教に入信したわけで、自分たちが殺人を犯すとは考えてもいなかった。彼らはもともとは決して凶暴な人間たちではなかった。したがって、殺人を犯したことに激しいショックを受けたに違いない。

そこで麻原は、殺人の直後、それを正当化する教義を説くようになる。

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