減塩運動は時代遅れな考え方

間違い5 減塩・無塩の食事が健康的だ

脳卒中や心臓病などのリスクを減らしたいなら、血管をつくるたんぱく質を豊富に摂ったり、血管を修復するコレステロールを増やしたりして、血管を強化するのが有効です。

ところが、不可解なことに、日本では、「血管を丈夫にする」という取り組みを完全に“スルー”して、「日本人の血圧を下げる」という旗印のもと、国を挙げて「減塩運動」だけを熱心に展開してきました。塩分を摂りすぎると、血圧を上昇させたり、腎機能に負担をかけたりするリスクがあることを否定はしません。とはいえ、摂取する栄養の中で、塩分だけが過剰ならともかく、全体でバランスが取れていれば、大きな問題はないわけです。

かつての日本の食生活では、干物や漬物といった保存食に、大量の塩分を使っていた一方で、たんぱく質の摂取量が不足していたため、もろい血管に高い血圧が加わり、脳卒中などが多発していました。しかし、戦後の食生活が向上し、日本人の栄養状態が改善された結果、血管が丈夫になり、脳卒中は減ったのです。にもかかわらず、政府は「塩分悪玉論」の呪縛に取りつかれたまま、減塩運動をさらに推進しようとしています。

厚生労働省が現在、成人1日当たりの塩分摂取量(食塩相当量)の目標として示しているのは男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満。高血圧や慢性腎臓病の重症化予防の場合、男女とも6.0グラム未満。減塩運動の“成果”で、日本人の塩分摂取量は減少傾向にありますが、「成人1人1日当たりの塩分摂取量は男性11グラム程度、女性9グラム程度で、なお高いレベルにある」(厚労省のe-ヘルスネットによる)としています。

塩分は言うまでもなく、体に必須の栄養で、実は、「日本人は塩分が足りない」のではないかと、私は見ています。減塩運動を続けると、日本人の健康を損ねるとも危惧しています。最も権威のある医学誌「ザ・ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」(NEJM)には、尿中ナトリウムで4~6グラム、摂取した食塩ベースで10〜15グラムの人の死亡率が、最も低いというデータが掲載されました。

興味深いのは、その摂取量よりも多くの塩分を摂った人の死亡率はあまり上がらないのに、少ない塩分を摂った人の死亡率は急上昇している点です。もうおわかりのように、減塩運動によって、日本人の死亡率がアップする可能性が示唆されたのです。

塩分が不足すると、「低ナトリウム血症」にもつながります。めまいや頭痛、疲労感などの症状が起こり、重症になると痙攣を引き起こしたり、昏睡状態に陥ったりします。最近増えている熱中症も、多くは低ナトリウム血症によるもの。とりわけ、夏場は、減塩運動をスルーして、塩分をこまめに補給するようにしましょう。

新常識5 厚労省推奨の2倍の塩を摂ろう