中国から文化的距離をおくアメリカの「戦略的競争」

第一に、中国から文化的距離を置きつつあるアメリカの「戦略的競争」が大きく関係している。過去15年ほど、ハリウッドは日本よりも中国に力を入れてきた。スーパーヒーロー映画には中国人俳優がカメオ出演(※)し、世界を救うための役割を中国が担うなど、ハリウッドは中国や中国人を肯定的に描いてきた。

※映画、ドラマ、アニメなどで、短時間で強い印象を与える登場方法

ハリウッドの中国市場に対する力の入れようは、アメリカの人気風刺アニメ『サウス・パーク』の「Everyone Wants To Do Business In China」エピソードでもネタになっているほどだ。それは、中国が2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、アメリカの産業に投資してきたことに由来する。数百億円にも上る投資が中国からハリウッドに劇的に流入した結果、中国の映画スタジオはアメリカ映画の内容や配役に口を出すようになった。チベット問題で中国を批判してきたリチャード・ギアがハリウッドの大作から長年干されているのも一例だ。

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アイザック・ストーン・フィッシュは著書『アメリカ・セカンド』の中で、アメリカにおける中国共産党の影響力の変遷をたどっている。アメリカは当初、中国のアメリカ経済への参入が中国に民主化をもたらすと信じており、中国の投資を歓迎していた。

ところが、これが見当違いであったことが明らかになったにもかかわらず、アメリカのビジネスマンや政治家の多くが中国に経済的に依存するあまり、中国に異議を唱えることができなくなってしまったと説明する。

中国に厳しい検閲制度があるのを皆さんもご存知だろう。中国で大人気のハリウッド映画でさえ、検閲に引っかかり上映が禁止されることが多々ある。ブラッド・ピット出演作のなかだけでも、中国のチベット軍事侵略を描いた『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997)、ゾンビの発祥地が中国の『ワールド・ウォー Z』(2013年)、ブルース・リーの人物描写が中国にとって屈辱的だとされた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)など有名な作品がずらりと並ぶ。