ABC優位性からABC+α戦略へ
現在の国際社会において、日本は中国とは対照的に、ルールに従う国、地域的、世界的なレベルで安定と平和、繁栄に貢献している国として映る。表現の自由があり、ユニークな文化創造をする“開かれた社会”だと見られている。
ハリウッドにおける日本の立ち位置を、筆者は「Anything But China(中国でないもの)」として、その頭文字をとり“ABC優位性”と呼んでいるが、現状にあぐらをかいていてはすぐに競争に負けるだろう。日本ほど映画産業の歴史がないのにもかかわらず、国策としてコンテンツ戦略に力を入れ、ソフトパワーを輸出した韓国は、K-pop、『パラサイト』や『イカゲーム』などで大成功を収めた。
実際に、韓国政府は現在、コンテンツ戦略を見直しており、今年の3月に新たな映画支援財源を検討している旨を発表した。これまで、映画館のチケット料金の3%は「映画発展基金」として、製作費の助成、映画の海外展開や人材育成の支援に充てられてきたが、パンデミックで興行収入が落ち込み、映画発展基金は著しく減少した。このままではいけないと、韓国は今後、別の財源から安定した額を「映画発展基金」に投じるという。このように日本コンテンツの競合ともいえる韓国は新しい手を打ってきている。
日本は中国に対するいまの優位性に甘んじず、明確なコンテンツ戦略「ABC+α戦略」を練らないといけない。世界一の資本・才能・市場を誇るハリウッドとコラボレーションし、『SHOGUN』のように、「日本のナラティブでありながら、西洋の物語でもある」作品を開発すべきだろう。
先述した、ハリウッド作品に長年携わって来た前出の宮川プロデューサーもこう語る。「ハリウッドの扉が開いている今は絶好のチャンスです。海外のチームと深く対等にコラボレーションできる国際感覚を備えた人材の発掘と育成が重要だと思います」
「ABC(中国でないもの)」プラス、日本とハリウッドのアーティストやビジネスが自由に往来できるヒューマンリソースとマネージメント、労働環境、著作権法、インフラや税制優遇など、さまざまな法律や制度を整えた「ABC+α戦略」が必要ではないだろうか。