元警察官「あの数値は決して正確とは言えません」

「現場で呼気検査を行ってきた立場から言えば、あの数値は決して正確とは言えません。ドライバーだけでなく、警察側でも不正が行われることがあるからです。ですから、飲酒しているにもかかわらずハンドルを握り、事故を起こした場合は、その時点で呼気アルコール濃度に関係なく『危険運転致死傷罪』として立件するべきだという意見には、私も賛成ですね」

そう語るのは、愛媛県警の元警察官(1967年採用、2009年退職)で現職時代から警察の裏金問題を告発し続けてきた仙波敏郎氏です。

仙波氏(筆者撮影)

「飲酒検知を受けることに慣れているドライバーは、風船に息を入れるとき腹から息を吐かずに頬の中に入れた空気を吐き出そうとするんです。そうすると、アルコール濃度は低く出るのですが、口先だけで息を吹き込んだ場合、風船はあまり膨らまないので、こちらはもっと深く息を吐くように言うわけです。それでも従わない場合は拒否したとみなし、逮捕して血液採取を行うこともありました。また、呼気検査の前には必ず水で口をすすがせるのですが、中には、少しでもアルコール濃度を下げようとして、口をすすがずその水を飲んでしまう者もいましたね」

地元の有力者、警察縁者の絡む事件はもみ消しも…

一方、検知する側の不正もたびたび目撃してきたと言います。

「私の現職当時は、飲酒と無免許の取り締まりにノルマがあったんです。無免許の検挙は簡単ですが、酒気帯びは数値が問題になります。当時は呼気1リットル当たり0.25mg/L以上が基準だったので、その数値までアルコール濃度が上がるように、当事者から採取した風船の中の呼気を複数回、つまり2リットルくらい検知管の中に注入したり、中には警察官自らが自宅で酒を飲み、自分で風船を膨らませて酒酔い運転の検知管をあらかじめ仕込んだりしている連中もいました。そんなことはやめろとよく注意したものですよ」

逆に、有力者や警察の縁者が絡んでいる場合には、アルコール濃度を下げたり、飲酒をもみ消したり、といった理不尽な指示がしばしばあったと言います。仙波氏の著書『現職警官「裏金」内部告発』(講談社)には、そうした事実が具体的に記されています。

「宇和島警察署の前で重傷事故が発生したときのことです。加害者の呼気検査をすると明らかな酒酔い運転だったので逮捕し、私は必要な書類の作成に取り掛かりました。すると、しばらくして副署長が『逮捕しなかったことにしてくれ』と言いにきたんです。私は『何を言うんですか、刑事訴訟法上そんなことはできません』ときっぱり断ると、副署長は『じゃあ、お前はのいとけ』と言って私を担当から外し、逮捕を取り消したうえ、アルコール度数を低く捏造し、違反切符を飲酒運転の中でも軽い“酒気帯び”に変えました。実はこの加害者は国会議員の後援会長で、警察の防犯課長と一緒に酒を飲んでいたんです」

事の詳細については本の中に書かれていますが、結果的にこの事故は、被害者が3カ月間の入院を強いられる重傷事故であったにもかかわらず、「全治4週間の軽傷事故」として処理。加害者は免許取り消しを免れ、免停で終わりました。そして仙波氏はその後、異動を命ぜられたといいます。

「もちろん、まじめにやっている警察官は大勢いますが、呼気検査はこうした不正が可能なのです。デジタル式のものであれば、ある程度正確に検知結果が出せると思いますが、本来は令状を取るのに多少時間がかかっても、血液を採取してアルコールや薬物の検査すべきだと思いますね」