医師が「女性は50歳前後で骨密度検査を」と勧めるワケ
この骨粗鬆症の予防には骨吸収を抑制し骨形成を促す薬剤治療がある。しかし、急激に減ってしまった骨量を取り戻すことは難しい。
「残念ながら80歳くらいから治療をしたとしても、骨は急に作られるわけじゃない。女性は更年期を迎える50歳前後で一度、骨密度検査を受けることをおすすめします」
更年期障害の治療には、閉経によって減少したエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)がある。
「ホルモン療法への抵抗がある方も多いかもしれませんが、HRTで補充するエストロゲン量は月経不順や子宮内膜症の治療で使用される低用量ピルの約8分の1ほど。実際に月経があった頃に体が作り出していたホルモン量と比べてもわずかな量に過ぎません」
HRTには、内服薬、貼り薬、塗り薬といった様々な処方がある。症状や続けやすさなどを考慮し、自分にあった処方を選択できる利点があると谷口教授は言う。
ちなみに、更年期症状の治療は健康保険適用内となり、安価での薬物治療が可能である。
HRTの使用推奨期間は5年以内である。もう1つの選択肢となるのが漢方薬だ。更年期症状のピーク時にはHRTと漢方薬を併用、使用終了後も症状がきつい場合は漢方薬のみ服用に切り替える方もいる。
男性ホルモン「テストステロン」のピークは20代
更年期障害に悩まされているのは女性だけではない。
「女性には閉経という急速に女性ホルモンが低くなる時期があります。一方、男性にはそういった契機がはっきりとないので分かりにくく、認知度が低いんです」
こう語るのは、とりだい病院泌尿器科で男性更年期治療に携わる本田正史准教授である。男性の更年期障害は、「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」とも呼ばれる。
原因となるのは精巣で作られる男性ホルモン「テストステロン」の減少だ。
「テストステロンの分泌量のピークは一般に20代で訪れます。それを過ぎると分泌量が徐々に下がっていきます。女性は更年期でがくんと下がる。男性は加齢とともにゆるやかに下がっていくのが特徴。更年期くらいの年齢になるとLOH症候群となって現れます」
テストステロンには、筋肉をつくる、気持ちを前向きにするという働きがある。テストステロンの減少は、不眠や鬱のような精神的な症状から、筋力低下や疲労感、ほてり・発汗、性機能の低下といった身体的な症状につながる。
検査の結果、男性更年期障害と判明した場合はやはり薬物治療に入る。
「患者さんご本人が納得されたら、ホルモン補充療法として2~4週間に一度の注射からスタートです」
このホルモン補充療法も保険適用範囲である。HRTと違うのは、テストステロンの補充療法の開始は更年期の時期に限らないことだ。
ただし、更年期障害のようだから、安易にサプリメントに頼らないでほしいと本田は警鐘を鳴らす。
「ホルモン系の薬の中でも特にテストステロンを含むものは肝機能障害を起こしやすい。原則、日本国内では男性ホルモン系の経口薬は使われておらず、輸入品も含め医師の処方でないものはおすすめしません」
沈黙の臓器とも言われる肝臓は、悪化してからでないと気付かないことも多い。更年期障害を和らげるつもりで、別の臓器を痛めつけては意味がない。
男性更年期障害の症状は、加齢による体力低下、鬱、あるいは新型コロナ後遺症とも重なる。そのため自己診断は難しい。