政策実現のための”広報誌“としての側面もある

警察白書』は、警察の活動について紹介するとともに、警察の政策に対する国民の同意を得るために編集されており、広報誌の性格が強くなっている。あえて言えば、世論を一定の方向へ誘導しようとする意図を持っているという特徴がある。

この具体例を、21世紀に入ってからの20年間、『警察白書』が発表された際の新聞報道を見ながら考察していこう。以下は、『警察白書』が発表された当日または翌日の朝日新聞の記事の見出しである。

・「不祥事、警察白書の序章で特集 「みぞうの事態」に対応」2000年9月22日
・「警察白書、テロに言及」2001年9月21日
・「警察白書、「拉致」の記述変更 北朝鮮・金総書記の謝罪言及」2002年9月27日
・「「日本は稼げる」「防衛意識希薄」 外国人容疑者の声、警察白書に」2003年9月26日
・「空き交番「3年後解消」 住民の防犯活動支援 警察白書」2004年10月1日
・「高齢ドライバー、家族の95%「危険」 本人「免許返さない」 警察白書に意識調査」2005年8月10日
・「ネット社会に警鐘 サイバー犯罪急増、4年で倍以上 警察白書が特集」2006年7月21日
・「暴力団も格差社会 株に触手、資金源に 警察白書」2007年7月17日
・「「協力得にくい」8割 捜査巡り現場刑事ら 警察白書」2008年8月22日
・「振り込め詐欺「生活脅かす」09年警察白書で特集」2009年7月28日
・「振り込め詐欺、進む国際化 2010年警察白書「捜査対象、世界に」」2010年7月23日
・「「犯罪の国際化」に捜査、各国と連携を 警察白書」2010年7月23日
・「サイバー犯罪「深刻さ増す」11年版警察白書」2011年7月22日
・「警察庁、原発テロの警備見直し 冷却・電源設備を重視」2012年7月24日
・「「いじめ犯罪心配」最多 子どもへの脅威、市民の意識調査 2013年版警察白書」2013年8月2日
・「会話傍受・潜入捜査14年警察白書に「検討課題」」2014年8月1日
・「主要幹部の摘発重要 暴力団壊滅向け 警察白書」2015年7月24日
・「「テロの脅威、現実に」 警察白書」2016年7月29日
・「交通事故死、年間2500人以下「困難」 2020年目標へ「対策を」 警察庁」2017年7月25日
・「犯罪対処にAI 虐待や特殊詐欺課題 警察白書」2018年7月24日
・「警察白書、対テロ・災害特集」2019年7月30日(朝刊)
・「高齢者の犯罪、30年で10倍20年版警察白書」2020年7月22日(朝刊)
・「警察白書公表、サイバー犯罪9875件」2021年7月20日
・「警察白書 先端技術を悪用した犯罪特集 安倍氏襲撃で要人警護を修正」2022年10月15日(朝刊)
*朝日新聞クロスサーチによる。「朝刊」の明記がない見出しはすべて夕刊から。
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『警察白書』の発刊にあたっては、記者会見またはブリーフィングが行われ、白書の内容の説明、資料の提供がなされる。筆者が法務省で『犯罪白書』の作成に関与した経験に基づけば、記者クラブに提供される「資料」は、あらかじめ新聞の紙面を想定して作成される。ほとんどそのまま新聞記事にすることも可能なものが提供されると考えられる。

朝日新聞の見出しを提示した23年間のうち、2003年から2021年までの19年間は、じつは、犯罪の「認知件数」が減少していた時期であった。

交通事故は犯罪とは別に統計を取っている

まず、犯罪統計について少し説明しておこう。

自動車を通常に運転していて死亡事故や人身事故を起こした場合は、自動車運転過失致死傷罪になる。従来は、自動車運転による業務上過失致死傷罪として分類されていた。こうした自動車運転の際の過失による致死傷罪は、自動車運転という特定の状況で、ほとんどの場合は過失に基づくものだ。したがって、日常生活において意図的に行われる犯罪とは異なるため、別々に統計を取るようになっている。

一般の犯罪の動向は、交通関係を除いた刑法犯の数値で見ていくことになる。なお、「認知件数」とは、警察に届けられ、警察が、犯罪が発生したと認知した犯罪の件数である。