当時の警察庁長官は“疑惑の人物”だった

その動機としては、自分たちの家族から何千万円もの多額の寄付金を出させ、家族を不幸に陥れた、いわゆるカルト宗教の存在があった。そして、その宗教団体から便益を受けている政治的主導者に制裁を下すというものであったと考えられる。

銃撃者の学業はきわめて優秀であったが、家族が多額の寄付を行い困窮に陥ったため、大学への進学を断念し、自衛隊に入隊する。そこで射撃訓練を行うとともに、拳銃の構造について学び、インターネット上に飛び交う情報を元に手製の銃を作製することができたのだろう。

このときの警察庁長官は、安倍内閣の官房長官秘書官を務め、内閣の中枢にいたこともある警察官僚であった。かつて、安倍元首相と最も親しい元放送記者のジャーナリストが強制性交で告発され、逮捕される直前に、警視庁刑事部長として、それを中止させたと言われる人物である。安倍元首相と密接な関係があり、警察庁のトップにまで昇りつめた警察官僚が、安倍元首相の安全を守り切れなかったというのは、皮肉な結果と言うほかない。

『警察白書』には警察官僚の意図が反映されている

警察白書』を作成するのは、警察庁の長官官房である。警察庁の科学警察研究所ではない。そのため警察庁の政策的な意図が直接的に反映される。この『警察白書』に関する文章の意味は、読者にとっては何が言いたいのか分かりづらいかもしれない。少しまどろっこしく思われるかもしれないが、別の白書と比較することによって『警察白書』の特徴を浮き彫りにしたい。

犯罪分野の基本的な白書は二種類ある。もう一つの基本的な白書は、法務省によって作成される『犯罪白書』である(なお、『犯罪被害者白書』を加えると三種類になる)。『犯罪白書』は例年12月に発表される。『犯罪白書』は、法務省の法務総合研究所の研究部が執筆の責任主体となっており、ルーティーン部分と特集の二つの部分から成り立っている。

ルーティーン部分は、犯罪の現状と趨勢すうせいを検討する。特集は毎年テーマを替えて集中的な調査を行い、従来と比較して法務省の刑事政策の課題と関連したテーマが選択されるようになっている。

写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

しかし、研究所の研究部が作成しているため、ルーティーン部分と同様に基本的なデータの提供と記述の客観性が重視される。以上のことから、犯罪に関する同じ白書でも、『警察白書』は『犯罪白書』と異なり、警察庁長官官房の官僚が執筆し、警察の政策を前面に打ち出した内容になっている。次に、その政策的な意図を具体的に見ていきたい。