強い目的意識を持つべし
【富坂】そうかもしれない。今どっちかというと、ただ一時的な元気を得るためにドリンク剤を飲んでいる状態でしょう。
【宋】そんなの飲まずに、根本的な体質改善が中国には重要だと思いますが。
【富坂】そんなことしたら政治が耐えられなくなるのではないですか。
【宋】だったら政治改革をすればいい。今までそれが遅れてきた。
【熊谷】日本の中国とのビジネスでは、中国人に対する知識を持ち、そのうえで「多様性(ダイバーシティ)」を受け入れて行動する寛容さが一番重要だと思う。
現地化の点で言えば、例えばある会社がコンパクトラグジュアリーという触れ込みで、小さくて高価な車を売ろうとしていたが、中国の人から見ると、どーんと大きくて、それでそんなに極端に高くない車に人気がある。だからマーケティングや商品開発をもっと現地化することが、非常に大きなポイントになる。あと、メンツを大事にする国なので、非常にブランド力が重視される。例えば、資生堂は強いブランド力をつくってから、安いブランドを出していったし、TOTOはまず釣魚台国賓館にウォシュレットを入れて話題性とイメージアップを図り、現地に根ざした営業展開をした。それプラス、スピード。やっぱりオーナー企業でないとスピードが遅く、韓国企業に負けてしまう傾向にある。
【富坂】中国の市場は、日本にとってすごく追い風になると考えた時期がある。日本にいてはできないことが、時々世界のマーケットでできたりすることがある。例えば先ほど熊谷さんのお話に出た資生堂は、申し訳ないけど日本のデパートにあったら、欧米の化粧品メーカーより、1ランク値段が安いかもしれません。だけど、中国のマーケットだと同等、つまり、ディオールなどの欧米のブランドと資生堂が肩を並べている。中国にはユーザーが何億人といますから、数のパワーでブランドになり、いわゆる世界標準になる可能性がある。これまでは日本が、中国を利用する目があまりにもなかったので、その中国市場で何をやりたいのか、どのように日本が位置づけていくのか、そのメリットをきちんととらえないから、日中でトラブルが起きると損した感ばかりが残る。だけどうまく使ってやれば、爆発力はすごいと思う。中国市場で何を達成するのか、強い目的意識を持ったほうがいい。
※すべて雑誌掲載当時
ソフトブレーン顧問・マネージメント・アドバイザー。1985年に北海道大学大学院に国費留学。92年28歳のときにソフトブレーンを創業。2005年、東証1部上場。06年、ソフトブレーン会長退任。
熊谷亮丸(くまがい・みつまる)
大和総研チーフエコノミスト。1966年生まれ。日本興業銀行調査部などを経て2007年大和総研入社。「ワールドビジネスサテライト」レギュラーコメンテーター。近著に『消費税が日本を救う』。
富坂 聰(とみさか・さとし)
1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てフリー。94年、21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。近著に『中国人民解放軍の内幕』『中国官僚覆面座談会』。