「国家は間違いを犯さないのですから!」

「官僚主義は私たちにとって重荷のようなものですが、これを削減するためにお金はかからない。必要なのは、これが私が一番言いたいことですが、企業家の勇気なのです」

ドイツの企業はすでに長らく、複雑怪奇な官僚主義に苦しんでいる。しかも、現政権になってそれがますます酷くなり、外国投資にも悪影響を及ぼしているとして批判が絶えないが、それをハーベック氏は企業の責任にしたのだ。さらには、

「国家というものは良いものであり、官僚主義は良いものである国家から生まれるということを理解しなければなりません。官僚はみんなバカだというだけでは、その理由がわからない」

そして、この後に衝撃的な言葉がくる。

「なぜなら、国家は間違いを犯さないのですから!」

この後、氏は「国家は間違いを犯さない」という不可解なテーゼを5回も繰り返した。しかも、その例として挙げたのが下記。

「建設許可の審査の2件に1件が免除され、あなた自身がリスクを背負うことになったとしたらどうでしょう。あるいは、パン屋やレストランなどの2軒に1軒が健康を害するものを売るとしたら? 皆がしょっちゅう下痢をすることになるのです」

「経済状態は良い。数字が悪いだけだ」

間違いを犯さない国家が監督してくれるおかげで、私たちはレストランに行っても下痢をしないで済むと、ハーベック氏は言ったのだ。それも、幼稚園児にではなく、産業界で活躍しているエリートたちに向かって。

ハーベック氏には、無知をさらけ出すような稚拙な発言が多い。例えば22年9月、ウクライナ戦争が始まって最初の冬を迎えようとしていた頃、ARD(公共第1テレビ)のトークショーで司会者が、「今冬に倒産の波が予想されるか?」と質問したのに対し、氏は「ノー」と断言し、「しかし、いくつかの業種が生産を止めることは想像できる」と真剣な面持ちで付け加えた。

偶然にもこの番組を見ていた私は耳を疑い、司会者も何度も問い直したが、氏は「生産を止めても、それは倒産ではない」という珍説を曲げることはなかった。ドイツ国の経済相が、よりによって経済の仕組みをよく理解していない。

それから1年半が過ぎ、現在の経済状況は前述の通り深刻だ。今年の2月、政府が過去2年続きのマイナス成長を報告した翌日、国会で野党議員にそれについての指摘を受けたハーベック氏は、「数字が悪いだけだ」と言った。つまり、経済状態は悪くない。議事堂内が図らずも大爆笑になった。「企業は生産を止めるが、倒産ではない」という発想と、合致しているといえば言える。

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