高齢者にも健康診断が必要な理由

ところで、高齢になってからも健康診断は必要なのでしょうか。基礎疾患があり、かかりつけ医に定期的に受診している方であれば、あえて受けに行く必要はないかもしれません。しかし、疾患がなくかかりつけ医を持たない高齢者については、私はとくに注意して問診するようにしています。

診察室に入ってくるところから医師側は健康診断を始めています。家族など誰かに付き添われて入ってくるのか、それとも介助なく、杖などの歩行補助具も使わず、独歩で診察室に入って来ることができるのか、これは重要な観察点です。歩行補助具を使わずともしっかりとした足取りなのか、それともすり足やよろけなどがあるにもかかわらず杖を使っていないのか、という点も注意して見ます。

また言語コミュニケーションがスムーズにおこなえるのかも確認します。話が噛み合わないときは、認知症を疑うべきか、それとも難聴なのかといった鑑別もおこないます。

そして身なり。高級品かどうかではもちろんなく、食べこぼし汚れやズボンに排泄物のシミなどはないか。もしこれらがあり、汚れや臭気が強い場合は、家庭環境に問題を抱えている可能性も考えなければなりません。そして退室時にはイスからスッと立ち上がれるのかも、転倒リスクの存在を見逃さないために注目します。

このような観察を踏まえて、身体・認知機能のあらましを把握するとともに、食事、排泄、睡眠、入浴など日常生活動作をどの程度おこなえているのか、さらには独居なのか、老老介護の状況に置かれているのか、いざとなったときに相談できる身内は近くにいるのかといった家族構成まで聴取することさえあります。

かかりつけ医はどう選ぶといいのか

つまりまだ要介護には至らない状態ではあっても、フレイルやサルコペニアに移行しつつあることを自覚していない人を早めに発見することが、健康診断の重要な機能の一つなのです。

かかりつけ医を持たない高齢者こそ、健康診断が年に一度の極めて貴重な機会であるというのは、こういった理由によるものです。

健康診断を利用してかかりつけ医を作るという手もあります。健康診断で訪れた医療機関の医師と会話を交わして、いろいろ相談に乗ってくれそうかどうか品定めしてみるのも良いでしょう。

では、かかりつけ医はどのような医師が良いのでしょうか。私もよく聞かれます。最も重視したいのは、あなたの話をよく聞いてくれるか、そしてあなた自身もその医師の話を聞いても苦痛とならないかという点、つまり「相性」です。

話をよく聞いてはくれても、聞くだけでなんら提案がない無口な医師では意味がありませんし、逆に話したがりで一方的に説明するばかり、言いたいことも言わせてくれずに、あなたが聞き役に徹しなければならないのであれば、それは苦痛以外の何物でもありません。

医師―患者関係といっても、所詮しょせん、人と人とのかかわり合いです。たがいに話しづらかったり、いつも話が噛み合わなかったりするのでは、両者ともに不幸だと思います。