人生は完璧ではない

ハッサンは“トラックの女王”と呼ばれるくらい世界大会で快走を連発してきた。2017年のドーハ世界選手権で1500mと10000mを制すと、2021年の東京五輪は5000mと10000mで金メダルに輝いている。

写真提供=ナイキ
シファン・ハッサン

昨年のブダペスト世界選手権は3種目に出場。5000mで銀メダル、1500mで銅メダルを獲得したが、トップをひた走っていた10000mはゴール直前に転倒して11位に終わった。レース後、笑顔で他の選手とハグすると、メダルを逃したハッサンはこんな強烈な言葉を残している。

「人生は完璧ではないんです。常に山あり谷あり。それが人生を美しくするんです」

ハッサンの人生は“起伏”に富んでいる。エチオピア出身の彼女は2008年に難民としてオランダに到着。看護師の勉強をしながら走り続けて、数々のタイトルをつかんできた。栄光と同じくらい多くの苦労を経験してきたことだろう。

東京マラソン2024についても、「結果的には最高ではなかったですけど、本当にたくさんの方がクレイジーなくらい応援してくれました。五輪での良い思い出もありますし、東京に戻ってこられてうれしいです。走っていても、すごくハッピーでした。特に最後の8kmは本当に楽しんで走ることができました」と笑顔でレースを振り返った。

現在31歳のハッサンは“負け”を認める強さを持っているが、若い頃は違ったという。

「昔はうまく走れないときに泣いたり、機嫌が悪くなることもありました。でも大人になるにつれて、うまくいかない日があることを知ったんです。そこから何を学べるのか。明日は明日の風が吹く。次があるからこそ、前を向いていこうと思っています。そういうマインドがすごく大事ですね」

世界中にファンがいるハッサンはSNSでも注目を浴びる存在だ。しかし、彼女は次に進むために、SNSが不要なときもあると考えているようだ。

「若い人たちはSNSをものすごく使っていますが、それを一度置いて、外に走りにいきましょう。きれいな空気を吸って、ストレスを発散して、自宅に戻ってくる。それが気分転換には大事だと思います。スマホは便利なモノではあるんですけど、自分の人生を全うしてほしい。SNSはゴミみたいなものですよ(笑)」

困難の後には必ず良いことがある、と信じているハッサン。暗闇の先に灯る“明かり”を目指して、前に進んでいるようだ。

真の勝者だから知っている敗北の意味。日本人は真面目で頑張りすぎなのかもしれない。負けることも人生なのだから。

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