手痛い敗北やピンチを迎えた時ほどその人の本性が出る。スポーツライターの酒井政人は「東京マラソン2024で負けてしまった日本人と外国人選手のコメントはとても対照的なものだった」という――。

アスリートたちの“敗者の言葉”世界王者は負けてもなぜ笑顔なのか

勝負の世界は“勝者”と“敗者”が存在する。スポーツ現場を取材する立場としては、勝者に話を聞くときは、コチラもワクワクした気持ちになる。反対に敗者の取材は非常に難しい。一番悔しいのはアスリート本人であり、その気持ちがよく理解できるからだ。

誰も心に余裕がないときにその人物の“本性”が出るもの。3月上旬に開催された東京マラソン2024で惜しくも敗れ去ったアスリートたちの含蓄ある言葉を振り返ってみたい。

橋の上を走るランナー
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東京マラソンで日本人トップ選手は涙した

男子は西山雄介(トヨタ自動車)が日本歴代9位の2時間06分31秒で日本人トップ(9位)に輝くも、ゴール後は両手で顔を覆った。MGCファイナルチャレンジ設定記録(2時間05分50秒)に41秒及ばずに、パリ五輪代表を逃したからだ。

「オリンピックを決めるつもりで来たので、その一心で最後まで走りました。今までで一番いい状態でスタートラインに立ちましたが、結果的には全然足りなかったので、『悔しい』の一言です。自分の取り組みがダメだったと思いますし、弱さを感じましたね……」

前半はペースメーカーが設定より少し遅くなり、転倒というアクシデントもあったが、西山は自身の“実力不足”を強調。「悔しい」という言葉を何度も口にした。

女子は新谷仁美(積水化学)が日本記録(2時間18分59秒)の更新を目指していた。しかし、前半はイメージ通りのタイムで進まない。中間点からペースアップしたが、そのダメージで終盤失速。2時間21分50秒の6位に終わった。

レース後の記者会見では、「単純に結果が出なかったということで、それ以上でも、それ以下でもありません。本当にただただ力不足だったなと思います」と述べると、「サポートしてくれる方々に目に見えるもので恩返ししたい。マラソンの日本記録はかたちとして残るんじゃないかと思うし、私もそこにこだわりを持ち続けているので、今後も可能性があるなら狙いたい」と話すときには声を詰まらせた。

西山と新谷は日本人トップに輝いたが、それぞれのターゲットに届かずに涙を流した。ふたりとも特に言い訳することはなく、日本人選手の“敗者の言葉”は謙虚で慎ましい印象だ。