世界王者はレースを笑顔で振り返った

東京マラソン2024には世界中に名前をとどろかせている陸上界の超スーパースターが出場した。男子マラソンで五輪を連覇中で、同世界記録を2度も塗り替えたエリウド・キプチョゲ(ケニア)。それから昨年のシカゴで女子マラソン世界歴代2位の2時間13分44秒を叩き出したシファン・ハッサン(オランダ)だ。

キプチョゲは19km過ぎにトップ集団から脱落。2時間06分50秒の10位に終わると、以下のコメントを残した。

「スポーツはいい日もあれば悪い日もある。今日は残念ながら悪い日でした。私たちは今日の教訓を明日への糧としていくまでです」

今年の東京前までのマラソン戦績は19戦16勝。2019年の非公認レースで人類初の2時間切り(1時間59分40秒)を果たしているキプチョゲにとって、今回は“惨敗”ともいうべき結果だろう。

それでもレース後に涙はなく、コメントにも悲愴感がまったくなかったのに驚いた。悔しさを押し殺した可能性もあるが、「スポーツはいい日もあれば悪い日もある」という第一声にその心情は感じられなかった。

一方のハッサンも25km過ぎにトップ集団から大きく遅れ始めて、2時間18分05秒の4位とファンの期待に応えることはできなかった。

ふたりは東京マラソン2024の翌日にナイキのイベントに登壇した。どんな顔を見せるのかと思っていたが、意外と晴れやかだった。さらに彼らが改めて語った“敗者の言葉”は新鮮に感じられた。

キプチョゲは昨年4月のボストンで6位に沈むも、38歳で迎えた昨年9月のベルリンを2時間02分42秒で完勝。今回の東京はマラソンで過去ワーストといえる結果に終わったが、「結果はうまくいきませんでしたけど、毎日、クリスマスが来るわけではありません。マラソンで大事なのは、自分ができるランニングを一貫して続けることです」と勝敗に一喜一憂しない美学を披露した。

エリウド・キプチョゲ
写真提供=ナイキ
エリウド・キプチョゲ

勝ち続けてきた男だが、「負ける」ことを受け入れる準備をいつもしているようだった。さらに哲学者のような表情でこんなことを語っていた。

「私たちは機械ではありません。アラームが鳴っても完璧に起きられるわけでもないですし、100%のトレーニングをしても思った通りの結果にならないこともあります。でも、それこそスポーツです。今日悪くても明日は良くなるかもしれません。明日のプランを考えて、毎日動き続ける。それが大事だと思います」

39歳のキプチョゲは今夏、五輪の3連覇を目指している。おそらく東京での敗北が、彼をさらに強くするだろう。

「マラソンは人生を理解する方法です。若い人はランニングをしてほしい。問題が起こっても、走れば答えが出てきますから」という言葉も素敵だった。