相手の名前を話題に盛り込めるか
要は、「もう一度、会いたい」と思わせる人になるだけでも、AI時代には価値があるのだ。
そうしたアプローチがロボットに不可能なのは言うまでもない。
たとえば、ビジネスランチ。誰かがスマホを取り出した途端に検索競争が始まり、話題は個人的なものからそれていく。そんな時、その流れに乗らずに目の前の人に意識して集中するだけでも、相手はあなたの意図をよりはっきりと感じてくれるだろう。
「どこの出身でしたっけ?」
「何がきっかけでこの仕事に入ったんですか?」
「部活やってました?」
「パートナーとはどこで?」
「お子さん、そろそろ塾通いですか?」
失礼を承知で突っ込もう。リスクを冒して叱られたところで挽回は可能だ。
さらに言えば、仕事ができる人は、大事な話題の中に、相手の名前を欠かさず盛り込むことができる人だ。そんなアナログな大胆さと細やかさが、あなたという存在の希少性を高めてくれる。
「なんでおとなしくしてんの?」
ゴジラがアカデミー賞を獲得した3月、京都市京セラ美術館に「村上隆 もののけ 京都」(2024年9月1日まで)を見に行った。ここにもヒントが隠されていた。
遭遇することになるのは、ルイ・ヴィトンをもうならせた村上隆の圧倒的な「突破力」と「狂気」だ。生意気を言うが、日本人は全員、そのむちゃくちゃなパワーに触れて一皮むけたほうがいいと思う。
まさに歌舞伎だった。
村上隆は沈滞した現代社会をけしかけ、かぶいて見せているのだ。
個展のタイトルが「もののけ 京都」で、京都に昔から住んでいるかもしれない「もののけ」を描いているように見せてはいるが、実は村上隆は、訪れたすべての人に「あなたも、もののけの一人でしょ」「あなたにも狂気が宿っているでしょ」「なんでおとなしくしてんの?」と問いかけているのだ。
まず、入り口前にたたずむ仁王像に圧倒される。そして、日本庭園にそびえる、あの花の精のような金ピカの巨人にも。醜悪さと美しさは共存できる。
もう、説明するまでもないだろう。
「正解至上主義」に覆われた日本のムードのゲームチェンジャーは、手であり足腰であり、ぶっ飛んだ想像力だ。ここに挙げた2つの武器、「アナログ」と「狂気」は、いずれも時代の流れに逆行する。AIロボットが進める高度な情報処理社会の対極にある「逆張り」なのである。
年齢も世代も性差も関係ない。あなたも反逆の戦いを今日から準備し、自分という武器を磨こう。AIロボットの効用を目いっぱい利用しながら、そのダークサイドの支配に人間力であらがおう。完璧なデジタルゴジラの牙を抜くには、「逆張り」思考が決め手になる。