少人数だからこそ手厚い教育が受けられる
――たとえば島根県の津和野には公営の塾があって、大学受験をする子のサポートをしているという話も聞きました。
【岩本】そういう地域もあります。いま言ったように、生徒の進路もさまざまなので、難関大学をめざす子に対しては、多くの高校で少人数・個別指導をやっています。そもそも地域みらい留学の大きな特徴のひとつが、少人数教育なんですよ。平均すると1学年50~60人。教員ひとりあたりの生徒数が少ないから、かなり手厚い指導ができるんです。
とくに旧帝大とか医学部への進学をめざす子は、完全な個別指導になります。そういう子は学年にひとりだったりしますからね。
――そこは都市部の学校とはまったく違いますね。
【岩本】都市部の大規模高校や通信制の高校と比べると、生徒一人あたりに十倍は人の手がかかっていると思います。学校経営を考えれば、たくさん生徒を集めて、少ない教員で教えるほうが効率はいいでしょう。でも、僕らはそういう考え方をしません。
地域みらい留学をやっている高校は、経営効率は悪いかもしれないけれども、子どもは10倍手厚い教育を受けられます。教員だけでなく、コーディネーターがいたり、地域の方など、子どもひとりに対して関わってくれる大人の数がものすごく多いんです。だから、僕がいた隠岐島前高校もそうでしたけど、卒業式には卒業生よりも祝福にやってくる大人のほうが多かったりします(笑)。
生徒と地域をつなぐ「コーディネーター」
――「コーディネーター」の存在は、地域みらい留学ならではだと思うのですが、具体的にはどのようなことをしているんでしょうか。
【岩本】学校の教員とは異なる立場から、生徒と地域をつなぐ役割、教科的な学びと社会での学びをつなぐ仕事をしています。教員が教科を教える人だとしたら、コーディネーターは高校と地域、高校生と社会での多様な学びのフィールドをつないでいく存在ですね。
生徒と会話しながら、興味関心を引き出したり、それと関係がありそうな現場や、それを仕事としてやっている人に紹介してあげたりします。
――そういう人材を地域みらい留学側で用意するわけですか。
【岩本】いえ、自治体側が予算を出して、採用したり任用したりして、高校に配置しているというパターンが多いです。ただ、コーディネーターの採用支援や、育成支援、研修や学び合いの場を作るのは、僕らのほうでやっています。
コーディネーターがいない高校もありますし、常駐するケースもあれば、外から通ってくるケースもあります。ただ、現在は常駐の割合が増えていますね。僕らの調査でも、コーディネーターが常駐しているケースのほうが生徒の伸びが大きいことがわかってきました。
高校1年生で入ったばかりのときは、みんながみんな自分で動けるわけじゃないですからね。最初は教員やコーディネーターが機会を提供しながら、だんだん自分でできるようにしていくという感じです。