進学塾や大手予備校がない地方での大学受験

「総合的な探究」や地域活動で育まれる力は確かに大きい。しかし、親の視点で見た場合、やはり気になるのが大学進学だ。「田舎の公立校で受験勉強は大丈夫なのか?」という不安を持つ人もいるだろう。

参加している高校の多くは過疎地にある。そもそも高校生の数が少なく、大学の進学率も都市部ほど高くない。それゆえ進学塾や大手予備校もない。元太くんも最初は受験について心配していたという。

「正直、津和野に行ったことで学力は下がってしまったかもしれません。ただ、学校の宿題とかは多くないので、勉強の負担を減らしながら他の活動に注力できたのはよかったと思っています。

受験勉強については、津和野には『町営英語塾HAN-KOH』という公営の塾があって、サポートしてもらうことができました。英語以外にもいろんな講座が開かれていて、参考書もいろいろ用意されていて、すごく助かりました。休学して津和野に来ている大学生のインターンの方もいて、大学の話をいろいろ聞けたのもありがたかったですね」

当初、元太くんは東大に進学するつもりはなく、とくに憧れも持っていなかった。それが変わったきっかけは、やはり「竹」だった。

「竹でテントを作ったり、文化祭の入場門を作ったりしているうちに、広くいえばもの作り、抽象的にいえば空間や場を作ることに興味が湧いて、建築や街作りの本をいろいろ読むようになりました。そうしたら、東大の先生が書いている本が多いことに気づいたんですよ。大学へ行くなら、そういう先生たちのもとで学べたらいいなと思うようになったんです。

調べてみたら東大にも推薦型の入試があることがわかった。その制度なら自分がやってきた活動を踏まえて、学びたいことをアピールできるんじゃないかと思って、出願することに決めました」

写真=本人提供
竹で作った津和野高校文化祭の入場門
写真=本人提供
竹テント

地域活動を武器に東大推薦入試を突破

一次選考のセンター試験をクリアする学力はHAN-KOHを活用して身につけることができた。二次選考の面接では、北極圏のトナカイの研究と、津和野の竹林での活動が武器になった。机上で学んだ知識だけでなく、現場で頭と体を使って獲得したリアルな知恵。経験に裏打ちされた“自分の言葉”で話せる高校生はなかなかいない。

学校の授業よりも、自分の研究とボランティアを優先したこと。進学校をやめて、地方に留学したこと。受験勉強より竹林での活動に熱中したこと。都会的な教育観からすると、回り道に見えるかもしれない。

でも、彼は悩みながら、たえず自分の頭で考え、自分の判断で動いてきた。その結果、気づいてみれば、これからの大学生に求められる素養をすべて身につけていたのである。都市部の受験生とはまったく異なる、独自のやり方で彼は東大合格をつかみ取った。

ちなみに津和野高校は今年も推薦入試で東大合格者を輩出したという。