なぜ今、キャッシュに注目すべきなのか

「危機の今、まさに全リーダー必読の書」。柳井社長が推薦文を寄せている『徹底のリーダーシップ』(ラム・チャラン著/プレジデント社刊)。同書は今、ビジネス書の分野でベストセラーになっているが、この本の中でラム・チャラン氏が述べていることと、柳井社長の考え方には一致点が多い。そのひとつが「キャッシュフロー」を重視した経営姿勢である。


『徹底のリーダーシップ』は現在、ビジネス書のベストセラーになっている。『成功はゴミ箱の中に』はマクドナルド創業者の自伝で、ソフトバンク・孫正義社長のバイブルでもある。『プロフェッショナルマネジャー』は米国企業を再建した経営者の回顧録で柳井氏がボロボロになるまで読んだ座右の書。(3冊ともプレジデント社刊/記事最後にて詳細URL)

柳井「今回の金融危機で破綻した会社をみてもわかるように、黒字であろうと資金繰りが悪化すれば終わりです。

チャラン氏がこの本の中で、一貫してキャッシュにこだわっているのは、格付けが引き下げられて、社債も発行できない、融資も受けられないという会社がアメリカで激増したからです。GMのような巨大企業でさえ、資金繰りに行き詰って、政府の支援を受けることになりました。それでも破綻は免れませんでした。

GMと対照的なのがトヨタで、あれだけの現金保有額がありながら、さらなる資金調達に動きました。やはり手元資金がないことには、安心して経営ができないわけです。

商売の本質は、どれだけはやく、どれだけ多くキャッシュを得るか。商品をつくって、売って、キャッシュにし、それでまた商品をつくって、売って、キャッシュにする。そのサイクルを効率的にまわすのが経営の基本です。

ユニクロの店長が目指す最終の姿は、社員フランチャイズで自分がオーナーになって、自分の会社で『ユニクロという事業』をやることです。商売の仕組み、数字に対する理解がそのレベルまで行かないと、僕が言っていることの本当の意味はわからないでしょう。

チャラン氏は、年次目標、月次目標でさえ今のような不確実な環境の中ではすぐに意味をなさなくなる、と指摘していますが、われわれのようなシーズン商品を扱っている小売業ではそれが普通です。

1年52週は、半期、四半期、月、週といった単位にわけることができますが、われわれは、毎週商売の結論を出して、次の週にやるべきことを決めて実行するようにしています。数字を見てその都度結論をきめ細かく出していかなければ、最も重要な『実行』に結びつきません。

とくにわれわれは土日で売り上げの半分を稼ぎますから、土日が終わって、この1週間の商売はどうだったのか、次の週はどういうことをしないといけないのかを決めます。

小売業に限らず、どういう業種であろうと、毎日は無理でも少なくとも週に1回は数字を締めないといけない。松下幸之助さんは、決算は年に1回だけ行うのではなく、毎日やればすばらしい会社になると言っています。

僕の『経営の教科書』である『プロフェッショナルマネジャー』の著者、ハロルド・ジェニーン氏のおしえは『経営はまず結論ありき』です。ゴールを決め、そこから逆算して何をすべきかを考える。ゴールと現在地の距離を測るために必要なのが数字なのです」

※すべて雑誌掲載当時

(野崎稚恵=文・構成 澁谷高晴(人物)、市来朋久=撮影)