学校の人気者だと思い込んでいた娘が加害者になり孤立

「いじめだなんて……、うちの子はただ、転校してきたお子さんのことを考えて注意してあげただけだと思うんですが……」

佐藤美穂(40代)は、地方都市の小学校に通う長女の愛理(11歳)のいじめにより、被害児童が不登校になったとして、ある日突然、学校から呼び出された。美穂にとって愛理は、勉強もスポーツもよくでき、家では母の手伝いをし、妹の面倒をよく見る自慢の娘だった。

学校ではクラス委員を引き受けたり、学芸会で主役を演じるたりするなど、人気者に違いないと思い込んでいた。ところが、実態はクラスメートから煙たがられており、学校で孤立しているというのだ。

夏休み明け、愛理のクラスに女子児童・凛が小さな町から転校してきた。担任が特別頼んだわけではなかったのだが、クラス委員の愛理は凛の世話役を買って出た。実はこの時、既に愛理はクラス内で孤立しており、友達がいない状態だったのだ。

何も知らない凛は、積極的に声をかけてくれる愛理と仲良くするようになった。ところが、ひと月が経過した頃、凛は学校に来なくなってしまった。担任が凛の家庭訪問をしたところ、凛は愛理と一緒にいることが苦痛だと訴えていた。

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「あなたのためにやった」という論理

「凛ちゃん、その言葉遣いおかしいよ。ちゃんと日本語喋って!」

凛が以前、暮らしていた地域は方言が強く、凛は度々、愛理から、言葉遣いを直すよう注意を受けていた。

「凛ちゃん、ここは山の中じゃないんだから、服装気を付けてよ」

人一倍オシャレに気を遣う愛理は、凛の服のセンスにも文句をつけていた。

「愛理は一時期、運動会のために凛ちゃんを特訓するって、朝早く出かけていました。凛ちゃんのために頑張っていたはずなのですが……」

この「特訓」も、凛が望んだことではなかった。何より、凛は、他のクラスメートとも仲良くしたかったが、愛理がそれを許さなかったのだ。愛理は、担任から凛の気持ちを聞かされ落ち込んだが、母親の美穂は、それでも娘の加害性にピンと来ていない様子だった。

「愛理としては、凛ちゃんが学校に馴染みやすいようにって、凛ちゃんのためを思ってやったことだと思うんです……」

虐待やDVの加害者たちはよく、「あなたのためにやった」と加害行為を正当化する傾向がある。方言や服装のセンスなど、個人のアイデンティティーを否定するような行動は控えるべきである