かつては「被害者」だった

愛理は、1年前、同じような問題からいじめの「被害者」になっていた。自分の方針に従わないと、口うるさく説教する愛理に嫌気がさし、クラスの友達は皆、愛理から離れていってしまっていた。愛理はクラスメートから無視されたと母親に相談すると、美穂はすぐ当時の担任に、娘がいじめられていると抗議をした。

この時の担任は新米で、保護者からのクレームに慌て、根本的な問題に言及することなく、「愛理さんと仲良くしてください」と児童に呼びかけ、表面的に問題を解決させていた。

今回は、凛が不登校になってしまったことにより、愛理は加害者の立場に立たされたが、問題の本質は、かつて被害者になった頃と変わっていなかった。

「美穂は社会性が低く、独善的なところがあって……」

これまで家庭に干渉しなかった夫の浩二も、今回ばかりは子どもが「加害者」と呼ばれ、慌てた様子で問題解決に乗り出していた。

愛理の言動は、母親のしつけが影響していることは浩二も認めていた。美穂は、どこでも自分が一番でなければ気が済まない性格で、勉強でもスポーツでも常に一番であることを子どもたちに課しており、他人を尊重することなど全く意識下になかった。優秀であったり、立場が上であれば、相手が従うのが当たり前だという思い込みがあった。

厳しくしつけている家庭の問題点

美穂は大学卒業後、数年、会社に勤務した後、結婚を機に退職。その後はずっと専業主婦だった。世話好きであることから、地域の行事やボランティアに積極的に参加してはいるものの、友達付き合いはほとんどなかった。

「正義感が強く他人に厳しいので、美穂と本音で話ができる人は少ないでしょう。『子どもは、皆に認められる自慢の子にしたい』というのが美穂の口癖でした。おそらく、自分がかなえられなかった理想像なんだと思います……」

他人をコントロールしたい美穂にとって、思い通りになった存在は唯一、長女の愛理だった。

リビングで正座になり、子供の目線に合わせたうえで、しかっている母親
写真=iStock.com/takasuu
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「愛理も母親の期待が重すぎたようです」

娘は、母に対する本音を父親に打ち明けていた。

「『一番』よりも、人を思いやる気持ちを育ててやらないと、一生、この子は寂しい思いをして生きることになるんだぞ」

夫の言葉に、美穂はようやく自分の独善性に気が付き始めた。