「耐えることは美徳」に要注意
では、なぜストレスが記憶障害につながっていくのでしょうか。
脳がストレスを感じると、副腎皮質という器官からストレスホルモンのコルチゾールという物質が分泌されます。
これは、身体の応急処置的な反応で、血糖値を高め、身体にエネルギーを与えてくれます。
ところが、強いストレスが長く続くと、このストレスホルモンであるコルチゾールが大量に分泌され、海馬を萎縮させることがわかってきたのです。
私たち人間というのは、短期的にでも過度のストレスが加わると、脳の働きが抑えられます。
それが長期にわたると、物を覚えたり思い出したりする能力が低下して脳細胞に障害を起こし、最悪の場合にはアルツハイマー病や認知症を発症させてしまう可能性も出てきてしまうのです。
また、最近ニュースなどでもよく耳にするPTSD(心的外傷後ストレス障害)ですが、その患者の脳を調べると海馬が萎縮していることがわかっています。
つまり、記憶を失うまでいかなくても、強いストレスを長く受けたことによって記憶力が低下する現象が起きているのです。
社会においては、「耐えることは美徳」とされることもありますが、我慢し続けてストレスを長期的に受けていると、自分の脳がダメージを受けてしまうかもしれないということを認識する必要があるのです。
ストレスをゼロにしてはダメ
ただ、気をつけなければならないことがあります。
普段からストレスを抱えている、ストレスを抱えやすい、あるいはストレスに弱いといった人がストレスをゼロにしようとするのは、潔癖症の人がやたら手を洗ったり、部屋中を殺菌したりするのと同じことだということです。
こうした過度な無菌状態をつくり上げ、雑菌のいない生活を送ってしまうと、身体の免疫力も低下してしまいます。
実は、ストレスも同じであり、ストレスに弱いからといってゼロにしてしまうと、脳がストレスに対処する方法を覚えなくなってしまいます。
歌舞伎役者の市川海老蔵(当時)さんは、幼少のころから舞台に上がり、常にトップを走り続けてきました。
直接、お話を聞く機会が何度かあったのですが、彼がこれまで歩んできた人生のなかで受けてきたプレッシャーを考えれば、相当なストレスがのしかかっていたはずです。
海老蔵さんのすごいところは、そのプレッシャーから逃げることなく、強い気持ちで立ち向かうことでストレスのワクチン注射をしたようなことが起こり、脳のストレス耐性が強くなっているというところです。
当然ながら、私たちが海老蔵さんの脳レベルまですぐに到達することは難しいかもしれませんが、日々場数を踏んでいけば、ストレスとの戦いに勝つことができるようになるはずです。