「思い通りにならない場面」に耐えられない

事例2の「やりたい遊びができない」などの「思い通りにならない場面」は、学校をはじめとした社会的な場で活動する上では避けられないものですが、近年、増加している不登校や学校で不適応を示す子どもたちの中には、こうした状況に対する拒否感が中核になっている場合があるのです。

どうして彼らはここまで「思い通りにならない場面」に対して不快を覚えてしまうのでしょうか?

子どもが生まれてから一歳くらいまでは、外の世界とあまり積極的に関わることはせず、親子はべったりとした関係性の中で過ごすことになります。この間、子どもは親から大切にされることで基本的信頼感(世界に対して安心できるという実感)を育むと同時に、子どもの行い一つひとつに親が反応し、対応することで能動的な力の感覚(積極的に世界に働きかけていく力。自信の萌芽ほうがでもある)を身に付けていきます。

子どもが一歳を過ぎるころには、歩けるようになるなどの身体的発達が見られるようになります。こうした身体的発達に、基本的信頼感や能動性の高まりが加わることで、「安全な親から離れて、外の世界に働きかけても大丈夫」という安心感をもって「外の世界」と関わるようになります。

適切に叱られることで成熟が促される

このように一歳を過ぎたあたりから、子どもは「外の世界」と本格的に関わり始めるわけですが、まだまだ分別がつかない子どもですから、やってはいけないことをたくさんやってしまいます。

回っている扇風機に指を突っ込もうとしたり、階段から落ちそうになったり、高いところに登ろうとしたり、とにかく親がハラハラしたり、びっくりするようなことを平気でします。こういうことを子どもがやりそうになったときに、親を中心とした「外の世界」に求められるのは、子どもの行動に対して適切に「押し返す」ということです。

この「世界から押し返される」とは簡単に言えば、叱られる、止められる、いさめられるといったことになります。現代の世の中には「自由にさせてあげた方が良い」「叱るのは可哀想かわいそう」という風潮があることは承知していますが、適切に叱られる、止められる、諫められることによってもたらされる「子どものこころの成熟」も理解しておいてほしいと切に願います。

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子どもが社会的な存在として成熟していくためには、こうした「世界からの押し返し」を経て、現実に合わせて自分を調整するという経験が絶対に必要なのです。