母親のパーキンソン病

2021年4月。84歳の母親が、「手が震えるから病院に行きたい」と言う。白馬さんはひとまず、母親のかかりつけの内科へ連れて行った。

医師に相談すると、「パーキンソン病だと思う」と言われ、紹介状を書いてもらう。後日、紹介状を持って大病院の脳神経内科で検査を受けると、

「パーキンソン病ですね。見た感じ元気そうですが、ドーパミンの少なさに驚きました。これは重症ですよ」

と言われ、服薬と通院が決まった。

帰宅して父親に報告すると、「やっぱりなあ! そうだと思ったんだよ! 見てれば分かるよ!」と心配するどころか、ドヤ顔。イラッとした白馬さんが、「だったらなんで早く病院に連れて行かなかったの!」と怒ると、しどろもどろになったあとに、逆切れして怒鳴りだす。

このとき白馬さんは、「若い頃から変だったが、父も何かしら病気なのではないか?」と思い始めた。

母親の見当識障害

夏になると、母親の物忘れがひどくなってきた。行きつけの歯医者には一人で行けていたが、予約をしたことを忘れてしまうのだ。父親のセルフネグレクトも気になっていた白馬さんは、包括支援センターへ行ってみることにした。

相談すると、すぐに母親の介護保険の申請手続きを勧められる。認定調査の日は、母親の面談にもかかわらず、父親がしゃしゃり出てきて、喋り出したら止まらなかった。支援センターの職員も困り果て、こっそり「お父さまは何とかしましょう。対策を練ります」と言ってくれた。

秋になると、母親に時間や場所がわからなくなる見当識障害が見られ始めていた。心配になった白馬さんは脳神経内科へ母親を連れていき、認知症検査をしてもらうが異常なし。

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しかしその数日後、母親は目の前にいる白馬さんに向かって、「娘が病院に一緒に行ってくれるって」と嬉しそうに言う。思わず「私が誰だかわかる? 娘は私だよ! 私の顔忘れないでね!」と白馬さんが言うと、母親はハッとして、「分かってるよ! 忘れてないよ! そうだよね~、何言ってるんだろうね~」と笑った。

また別の日は白馬さんに向かって、「ねえ、昔の古い家に来たことあったっけ?」と言い出す。実家は白馬さんが10歳の時に建て替えて、25歳まで一緒に住んでいた。目をぱちくりさせ、「お母さん何言ってんの?」と白馬さんが言うと、母親は自分が口にしたことのおかしさに気付き、取り乱して泣き出してしまう。

「この頃の母は情緒不安定気味で、もう何十年も疎遠になっているきょうだいを突然思い出し『今どこにいるか分からないの。元気にしてるかも分からないの』と言って泣いたりもしていました」

白馬さんが「行方探してみる?」と聞くと、「今頼られてもこんな身体じゃ何もできないからいい」と言う母親。この頃、白馬さんは2歳下の自分の弟に連絡を取ろうにも電話に出ず、メールで両親の状況を報告しても音沙汰なしだった。