健康診断を受けても寿命が伸びるわけではない

1954年に世界初の組織的な人間ドックが日本でスタート。1972年には労働安全衛生法が制定され、それ以降は企業の社員について、年に1回の健康診断が義務付けられるようになりました。こうして日本が健診大国になった結果として、今では医者も受診者も健診結果に振り回されるような状況にあります。

では健康診断にはどれほどの効果があるのでしょうか。

健診の受診率は女性よりも男性のほうが高く、とくに高齢者ではその傾向が強くなります。もし健診に延命効果があったなら、受診率の高い男性のほうが長生きになるはずです。しかし現実は逆で、2022年の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳ですから、約6年も女性のほうが長い。全国的な健診が始まる前の1970年の平均寿命は男性69.31歳、女性74.66歳だったので、男女の差は健診が始まって以降、むしろ開いているのです。

フィンランド保健局は1974年から1989年にかけて健康診断に関わる調査を行いました。40~45歳の上級職員約1200人を約600人ずつのグループに分けて、一つは定期健診や栄養チェックを行いながら運動やタバコ、アルコール、砂糖や塩分の摂取を抑制するように指導。もう一つは何も指示せず、調査票の記入だけを依頼して、15年間の追跡調査を行いました。

そうして両者を比較した結果、しっかり健康管理をされていたグループは、心臓や血管系の病気、がんの発症、自殺を含む各種の死亡者数など、いずれにおいても指導をされなかったグループを上回ったのです。本来はこの調査で「健康管理をしたグループの寿命が延びる」という結果の出ることを期待していたのでしょうが、現実は真逆になったわけです。

この結果の意味するところは、ガチガチな健康管理は、場合によって健康を損ねるおそれがあるということです。厳しすぎる管理がストレスとなり、このような結果を招いたのかもしれません。

日本の精神医療体制は整っているとは言い難い

2015年からは、従業者50人以上の企業を対象にストレスチェック制度も義務化されました。これは労働者が自分のストレス状態を知ることで、ストレスを溜めすぎないように対処したり、職場の状況を把握して労働環境の改善につなげることで、うつなどのメンタルヘルスの不調を未然に防止することを目的とした制度です。

ストレスチェックの結果によって面接指導を受ける必要があると医者に認められた時に、診断された当人の申し出があれば、企業は面接指導を実施しなければなりません。

メンタルヘルスの重要性が叫ばれている昨今の社会情勢を鑑みれば、当然の制度のように思うかもしれません。しかし残念ながら、今の日本は精神医療の体制が整っているとは言い難い状況です。