チャットGPTを猛追する「中国版GPT」

しかもこれらの集大成として、17年には音声AIアシスタント「デュアーOS」を発表し、20年には自動運転プラットフォームによるタクシーサービス「アポロGO」を開始しています。

そんなAIの下地のもと、23年8月に一般公開されたのが「文心一言(アーニーボット)」です。これは対話型生成AIで、チャットGPTに対抗するサービスと位置づけられています。文心一言では、テキストを生成できるだけでなく、自然言語を入力することによって画像や動画まで生成できるようになっています。

中国では、この百度の生成AIを筆頭に、アリババの「通義千問」、テンセントの「混元助手」、ファーウェイの「盤古」などの生成AIが矢継ぎ早に発表され、サービスを開始しています。

アリババ(阿里巴巴集団)は1998年に創設されたオンライン・ショッピング企業。テンセント(騰訊)はソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供する企業で、「中国のフェイスブック」などとも呼ばれる企業です。そしてファーウェイ(HUAWEI)は通信機器大手メーカーで、移動通信設備の大手です。

これらの中国のIT企業が、生成AIではチャットGPTやバードを猛追しはじめているのです。

写真=AFP/時事通信フォト
中国IT大手・百度の対話型人工知能(AI)について発表する李彦宏最高経営責任者(CEO)(中国・北京)=2023年3月16日

生成AIでも激化する米中の対立

このように、米IT企業のサービスが利用できない中国では、中国IT企業によってやはり生成AIが開発・公開されています。

この米国対中国という対立の図式は、もちろん生成AIに限ったことではありません。もともと米国は自由民主主義を基盤とし、中国は共産主義を基盤としています。両国の価値観そのものが根本から異なり、米中対立が深まる一因になっています。

しかも、ここ1、2年は低迷しつつあるとはいえ、中国の経済成長は著しく、米国の経済を脅かす存在となっています。また、中国は知的財産の侵害や為替操作などの問題を抱えており、米中の経済摩擦が続いています。

そんな状況ですから、生成AIでも米中対立が起こるのは当然なのです。米国では、中国企業のバイトダンスが16年9月に始めた「ティックトック(TikTok)」について、中国企業が運営しているのだから、ユーザーのデータが中国に流出しているのではないか、といった疑念を持っています。