中国のIT企業が次々と生成AIの新商品を繰り出している。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「米中両国とも、生成AIで世界をリードする技術を持っており、互いに開発競争を激化させている。日本はどちらのAIを選択すべきなのか、大きな決断を迫られている」という――。

※本稿は、田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

中国・北京にあるバイドゥ本社
写真=iStock.com/V2images
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政府によるインターネット規制の一環

これまで見てきたように、生成AIという新しい技術にはさまざまな問題がありますが、しかしこの技術が未来を変え、ビジネスを変革し、それによって大きな利益がもたらされることは容易に予想できます。その証拠に、生成AIの開発が激化しているのです。

現在実用化されている対話型生成AIサービスは、オープンAIのチャットGPTとグーグルのバードが双璧です。この2つのサービスは、世界のあちこちで利用できますが、中国だけは別です。

中国では政府によるインターネット規制の一環として、グーグルなどの外国製サービスの利用が制限されています。海外の情報のなかには、中国政府に都合の悪いものも少なくありません。これらの情報がむやみに広がらないよう、インターネットを規制しているともいわれています。

この規制のため、中国ではグーグルのバードは利用できず、またチャットGPTも利用できません。チャットGPTを使ったマイクロソフトのビングも、やはり利用できません。代わりに進められているのが、中国の大手テック企業や大学研究機構による独自の生成AIです。

「中国版グーグル」が乗り出したAI事業

たとえば、百度(バイドゥ)。同社は中国最大の検索エンジンを提供する企業で、“中国版グーグル”ともいえる企業です。政府によってグーグルのサービスが規制されているため、中国ではインターネット検索や地図、翻訳といったサービスが百度によって提供されています。

検索サービスという性格上、この百度の売上もグーグルと同じく広告に高く依存していますが、コロナ禍によって広告が低迷し、モバイル決済など金融サービスへの対応が遅れたため、業績が低迷してきました。代わって乗り出したのが、AI事業です。

AI事業を行うためには、事前に学習させる膨大な量のデータが必要になりますが、百度では検索サービスを行ってきたため、このデータが利用できます。検索サービスの利便性を向上させるため、2014年に百度では多層な学習モデルと大量の機械学習によってデータの分析や予測を行う「百度大脳」を発表しています。さらに16年には深層学習プラットフォームの「パドルパドル」をオープンソース化し、世界レベルでのAIエンジンの取り込みも図っています。