日本車が市場シェア9割を占めるインドネシアで、中国EVメーカーが攻勢をかけつつある。フリージャーナリストの竹谷栄哉さんは「中国のEVメーカーはインドネシア政府に猛烈なロビイングをかけている。その結果、中国のコンセント規格がインドネシアの国家規格になろうとしている」という――。

中国のEVメーカーが攻勢をかけている

「これはジャーナリズムの傲慢ごうまんだ。読者に偏見を植え付けている」――。

2023年12月27日、インドネシアのムルドコ大統領首席補佐官は記者会見を開いた。同月24日に公開された現地週刊誌『テンポ』の記事に抗議するためだ。

ムルドコ氏はジョコ・ウィドド大統領の最側近の一人とされている。

彼をここまで怒らせる記事の内容とはどのようなものだったのか。

いま中国の電気自動車(EV)メーカーがインドネシア市場に攻勢をかけている。今年1月に中国EVメーカーのBYDが進出を発表したほか、同じく中国EVメーカーの「上汽通用五菱汽車(ウーリン)」はジョコ大統領の側近に猛烈なロビイングをかけているという。

前述の週刊誌記事は、「ウーリン」が、ジョコ大統領の側近であるムルドコ氏に対し、自分たちの充電コンセント規格「GB/T」を「インドネシア国家規格(SNI)」として採用するよう、ロビイングを掛けていたという内容だった。

報道陣に時計を見せるインドネシアのムルドコ国軍司令官
写真=AFP/時事通信フォト
報道陣に時計を見せるインドネシアのムルドコ国軍司令官(肩書は当時、2014年4月23日)

ジョコ大統領の側近にロビイング

ウーリンは2022年に「SNI」の規格審査に落ちている。だがウーリンは2023年7月6日に上記のムルドコ氏に手紙を送り、国家規格に入れるよう依頼していた。

インドネシアのEVメーカーで、バス・トラックなど商用車EVの製造を手掛ける「モビル・アナック・バンサ社(MAB)」も、同様の依頼を同月12日にしていた。ちなみにこのMAB社の創業者はムルドコ氏である。

ウーリンの依頼を受けたムルドコ氏は、直後の17日に、SNI規格の権限を持つエネルギー鉱物資源省のアリフィン・タスリフ大臣に、中国ウーリンの「GB/T」を採用するよう手紙を送っている。