築地の魚のプロからは「川の臭いがする」と門前払い

ただ、今から30年ほど前の日本で、サーモン寿司を普及させるには高い壁があった。オルセン氏はまず、築地のプロたちにプレゼンした際、彼らから「味がおかしい」、「見た目が好きじゃない」、「川の臭いがする」、「刺し身で食べることも含め、すべてダメ」、「日本では無理」と、あらゆる面で否定され、見事に門前払いにあったのだ。しかし、これで折れてしまっては切り身用でしか売れなくなってしまう。

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オルセン氏が「サーモン寿司は絶対に日本でウケる」と感じていたのには、味に自信があっただけでなく、次のような理由があった。オルセン氏はこう語る。

「日本ではサケを生で食べないという固定観念があるが、ノルウェーのサーモンは年中、生産できるばかりか、寄生虫のアニサキスがおらず、安心して食べられる。『生食のサケ=NG』という偏見さえ払拭できれば、きっと日本で受け入れられると思っていた。そのためには、輸入業者や卸会社、スーパー関係者、料理人、消費者それぞれの考え方を変えていくことが必要だった」

回転寿司のプラスチックケースに入ったサーモン寿司に感激

それでも、日本の食習慣を変えるのは容易ではなかった。最終的には、いわば「ダメ元」で、日本の関係者との商談に当たってきた、とオルセン氏は打ち明ける。多くのサーモン在庫を抱え、幾度となく寿司ネタとしてのサーモンの可能性を否定されたオルセン氏だが、決して単価の安い切り身用として「投げ売り」することはなかった。

実際に、日本のある水産会社が、サーモンを主に切り身の用途で販売するため、ノルウェー側に1万トン以上の取引を求めてきたことがあったが、オルセン氏はこれを拒否している。

そうしたなか、「プロジェクト・ジャパン」に協力していた日本人が、大手食品メーカーのニチレイ幹部とのパイプを持っていたことで商談にこぎつけ、1991年に約5000トンのサーモンを寿司ネタ、生食用として供給する取引契約を結ぶことに成功した。

これがきっかけとなり、ノルウェー産サーモンは寿司ネタとして日本でデビューを果たすことになる。バブル崩壊による、食品を含めた低価格志向から、日本では空前の回転寿司ブームが到来していた。そして、ノルウェー産サーモンの存在も少しずつ知られるようになっていく。オルセン氏は1995年、回転寿司チェーンで透明なプラスチックケースに入ったサーモン寿司を見て、大きな感激を覚えたという。