普通校と特別支援学校の差がなくなってきている

【黒坂】大阪の中学校で支援学級に通う子どもの大半は、皆と同じように受験して、普通校に進学しているということですね。でもそうなると「たまがわ」(大阪府立たまがわ高等支援学校)のような指導がされるわけではないですよね。就業に的を絞ったきめこまかな「たまがわ」の教育について教えていただいただけに、もったいない気もします。支援学級から、普通高校に進学した生徒は、どのような教育を受けることになるのでしょうか?

【東野】大阪は国に先んじて、「自立支援コース」という高校版の支援学級をつくったり、「エンパワメントスクール」という学校をつくったりして、サポート体制を整えようとしています。エンパワメントスクールでは、これまでにつまずいたところを徹底的にやり直すといったカリキュラムが工夫されています。

【黒坂】そうすると、普通の高校と特別支援学校の差がなくなってはきませんか?

【東野】なくなってきているんです。だから「たまがわ」を希望して入れなくて、エンパワメントスクールに行ったんだけど、通ってみたらしっかりやれた、という子も結構いるんですよ。

【黒坂】それはつまり、もともと知的なハンディのある子が、特別支援教育のなかでその能力を伸ばし、普通校のなかでもやっていける実力をつけた、ということですね。その事実はうれしいですね。

学力格差の原因は先天的なものばかりではない

【東野】「たまがわ」に入ろうという子は、ほかの選択肢と比較検討してここを選んできています。ですから、保護者にしっかりした考えがある場合が多いんです。親として、知的障害のあるわが子の将来に何が必要かを真剣に考え、就業に特化した学校を希望している。そんな親御さんのもとで育った子どもは、自分のことがよくわかっています。

そういった意味で、「たまがわ」の子たちは比較的、安定していると感じます。できることも多くあるし、できるようになることが増えていきます。

【黒坂】しかし、先ほどのお話は、知的なハンディがないのに学力がふるわない子がいることも示唆するのではないでしょうか?

【東野】経済格差が学力格差につながっているんですね。

【黒坂】学力格差の原因は、先天的なものばかりではないと。

【東野】コロナ禍において盛んになった「オンライン」での学習も、学力格差に拍車をかけています。オンラインで勉強できる子はどんな子かというと、多くは誰かがそばにいて、「しっかりやんなさい!」といってくれる環境を持っている子です。そういうなかであれば、いやいやながらも子どもたちは画面に向かいます。しかし、そういう小言をいってくれる人が誰もいなければ、わざわざオンラインで勉強する子なんてほとんどいません。まだ、子どもなんですから。

写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです