「ちょっと変わった子」が許容されなくなっている
【黒坂】なぜですか?
【東野】それは、より充実した「教育サービス」を求めて特別支援学校を選ぶ保護者が増えているからです。あとは、やっぱり世間が厳しくなったからだと思います。
【黒坂】世間が厳しくなったというと……。
【東野】昔は「ちょっと変わった子」が周りにいるのは、許容範囲のうちでした。「ダメな子」がいても、ごまめ(小魚を意味する方言)みたいな扱いで、みんな一緒に遊び、育ったものです。大きくなってからも、農作業の手伝いなど、地域のなかで何かしら役割が与えられていたと思います。だから、あまり問題にならなかったのでしょう。
【黒坂】なるほど。統計の数字を見るだけではわからないことがありますね。発達障害などを理由に特別支援教育を選ぶ子は統計上、確かに増えている。だからといって、発達障害そのものが増えているとは言い切れない。
【東野】そこから、新たな逆転現象も生じているんです。
【黒坂】新たな逆転現象とはなんですか?
【東野】普通校の支援学級にいた中学生が、普通高校に進学するケースが増えています。文部科学省の統計によれば、2011年(平成23年)に支援学級を卒業した生徒の7割近くが、特別支援学校の高等部に進学していて、普通高校に進学する生徒は3割もいませんでした。しかし、徐々に普通高校に進学する生徒が増えて、ついに2020年、逆転しました。2021年には、特別支援学校に進学した生徒は4割ほど。半分以上が普通高校に進学しています。
支援学級から普通校に進学する子どもが増えている
【東野】以前は支援学級に通っている子どもにとって、普通高校の入試を受けて合格することが難しかったので、特別支援学校の高等部へ進学していたわけです。それしか選択肢がなかった、ともいえます。
【黒坂】それが、今は通常学級の中学生と同じように受験をして普通校に進学できるようになった。
【東野】ええ。子どもが少なくなって、入学試験のハードルが下がったということもあると思います。それに加えて、親御さんたちには、子どもをなんとかして大学へ行かせたいという気持ちが強いんです。今、高校を卒業してすぐに働く子はすごく少ないんですよ。
大学や短大、専門学校など「高等教育機関」への進学率は83.8%です(文部科学省「学校基本調査(令和3年度)」)。専門学校も含めると、8割以上の子は、20歳ぐらいまでは働かないわけです。すると保護者にしてみれば「障害のあるうちの子が、なんでわざわざ18歳から働かなければならないのか」と思えてしまう。
【黒坂】障害のあるわが子だけが、そんなに早くから働くなんて、と。
【東野】例えば、お兄ちゃんが大学に行っていたりすれば、22歳くらいまでふらふらして楽しく遊んでいたりすることもあるわけです。それなのに、障害のある弟がなんで、となるわけです。そう感じる親御さんが、すごく増えてきました。大阪では今、中学校の支援学級の卒業生で、「たまがわ」のような特別支援学校に来る子は2割もいないんですよ。