親以外のサポートが重要になる
【東野】注意していただきたいのですが、これは例えば、「シングルマザーやシングルファーザーの家庭では、オンライン学習が難しい」とか、そんな単純な話ではないんです。うちの学校でも、離婚した家庭のお子さんはごく普通にいますが、それが子どもの学びの問題に直結するわけではありません。
大事なのは、親のサポートだけでなく、親以外のサポートがどれだけあるか。祖父母やご近所さんもそうですし、行政とうまくつながっているかもそうですね。周囲とのつながりがどれだけあるか、というところになると思います。
【黒坂】社会とのつながりの喪失も、学力格差につながっているのかもしれないということですね。経済格差の問題と併せて取り組まなければならない、大人の課題です。
【東野】学力だけの話ではありません。子どもが働きだしたら、会社がもうひとつのネットワークになるわけです。職場に若者を支える環境があれば、離職率もおのずと低くなります。そして家庭の環境も、引き続き重要です。
仕事で疲れて帰ってきたときに、「お疲れさま。明日も頑張って」と洗いたての作業着を出してもらえたら、「じゃあ明日も頑張ろうかな」と思えますよね。そうでもしなければ、18歳の子がそんなに頑張って働こうなんてなりませんよ。
「支援を受ける力」を高める必要がある
【黒坂】障害のある子どもたちが、幸せに人生を歩んでいくためには、何が必要なのでしょうか?
【東野】「たまがわ」で、生徒たちに身につけさせようと頑張っていることのひとつが、「自己決定力」です。「たまがわ」に来る子は、これまであまり自分で何かを決定してきたことがないんです。小中学校ではマイノリティー(少数派)で、クラスやクラブの活動では、マジョリティーの決定に従ってきた。自分から何かしたいと手を挙げるのが難しかった子ばかりなんです。
しかし人生というのは、選択の連続です。ですから人に頼らず、最終的には自分で決める。それができるようにならないと、自立はできません。
【黒坂】授業のどういった場面で、自己決定を促すようにしているのでしょうか?
【東野】先生がああしろ、こうしろといわないようにしています。手取り足取り教えるのではなく、教えたことがうまくできなかったときには、「もう一回やり直してみて」といって、本人に考えさせます。失敗することも多いですよ。でも失敗からしか、学べないこともありますから。そして支援教育を受ける子どもに対しては、「受援力」をつけるように指導しています。
【黒坂】「受援力」ですか。初めて聞く言葉です。
【東野】社会でうまくやっていくためには、「支援を受ける力」も要るんです。困ったときは助けてもらう。「困っています」という信号をうまく出せるようにする。そういう力が「たまがわ」に通う生徒には必要なんです。